愛都市の異常な日常
#[ザ・ビートル](1/19)
#ザ・ビートル
 横山春香の朝は父親の位牌に顔を向けることから始まる。自宅のリビングにあるそれに手を合わせなかった日は一度もなかった。
 彼が死んだのは、春香が六歳の時。会社の営業先だった住宅地で亡くなっているのが見つかった。警察は変死と断定しただけで、それ以上の捜査は一切しなかった。
 彼女が自身のギフト、ミラクル・クリエイターに目覚め、ギフトの存在を知ったのは、その三年後だった。それは彼女の中に、父親の死に関するある仮説を打ち立てた。
 父は自分と同じような力を持つ人間に殺された。
 ここは某県の政令指定都市、愛都市。十六の区に分けられた、異常な日常が渦巻く街。



「さあ、よってらっしゃい、見てらっしゃい! 昔懐かし、紙芝居屋さんだよー!」
 春香が色葉区の自宅周辺をなんとなく歩いていると、ラッパの音とともにそんな声が近くの公園から聞こえてきた。実際に声のほうに行ってみると、自転車の後方に木製の専用の箱を取り付け、そのそばで子供たちにチョコレートを売っている男がいた。昔の日本を題材にしたテレビでしか見たことない光景に、春香は物珍しさを感じて遠巻きにその様子を見ることにした。
「お嬢ちゃんも見学かい」
 すると紙芝居屋とは別の男が彼女に声をかける。坊主頭で高身長の、肌の色からして白人


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