愛という花
■[第4章〜キミの音](1/17)
気付けばもう5月になった。
公園の桜も完全に葉桜になっている。
桜はどうしてあんなに美しいのか…、何となく考え始めた。
桜ほど潔い花は無い。
一気に咲き誇り、一気に散っていく。
消えゆくもののその命の輝きはとてつもなく美しい。
短く終わるものだからこそ、桜の花は美しく、心を打つ。
…ん?
ふと気付いた。
桜の美しさに意識を向けたのなんていつぶりだろう…?
新学期が始まってからの約一ヶ月間は私にとって決して悪い期間ではなかった。
修悟君と沖野さんに出会って、一緒に過ごして…、何かあったかいものが胸の奥に生まれたのも感じた。
2人の存在は確実に私の心の中で大きくなってきている。
この関係がずっと続けば…と思うけど、変わらないものなんてない…。
ずっと凍りついていた私の心が変化したように彼らの心だって変化する。
もっと言えば、世の中の万物、皆終わりが存在する。
桜が散るようにこの関係もいつかは終わるものなのかもしれない。
いや、終わるだろう。
だって私は2人に何もしてあげられてない。
何も返せてない。
笑顔すら…。
2人と過ごす中で私の鉄面皮も変化していくんじゃないかと思ったけど…
そんなことはなかった。
思ってた以上にこの顔の氷は厚くて…手強い。
こんな私じゃ、いつか2人は離れていくだろうと、静かに覚悟した時
何だか胸をかきむしりたくなった。
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「霞?」
声をかけられてはっとなった。
いつもの公園に少しだけ遅く修悟君がやってきた。
「あ、修悟くん。今日はあったかいね。」
胸を襲っていた焦燥感に気付かれないように、と言葉を続けた。
すると、いつもは返ってくるはずの笑顔は無かった。
私が不思議がっていると修悟君は隣に座って
「霞?何かつらいことでもあった?」
言い当てられてしまってちょっと焦った。
「え…っ?何も、ない、よ?」
「…。」
納得してない、という空気が刺さってくる。
でもホントに何かあった訳じゃない、私が勝手に考え込んでただけだから。
「はぁ…分かった。じゃあ、手。」
修悟君はため息をつきながらも追求はせず、ただ手のひらを上にして私に向けてきた。
「…?」
「嫌じゃなかったら手、上に乗せて?」
男の人に触れるのはとても抵抗があったけど、修悟君なら、と素直に思えたので、そっと彼の手の上に自分の手を乗せた。
「握っていい?」
「…うん。」
ぎゅっと握られた手からは修悟君の温度が伝わってきた。
とても温かった。
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