愛という花
■[第1章〜灰色の空](1/2)
初めてキミの笑顔を見た時

とても…綺麗だと思った

少しだけ悲しみも匂わせるキミの笑顔は



美しい…と感じたんだ。




***********




新しい学年が始まって2週間。


授業が終わった校内では高校生活が始まった高揚感ではしゃぐ1年生を捕まえようと、2・3年生が部活の勧誘をしている姿がちらほら目立つ。

そのせいか、校舎内のあちこちから話し声がしてきて何だか騒がしい。


人混みが嫌いな私にとっては苦手な時期である。

昨年この学校に入学してすぐの頃、いろんな人間から話しかけられてかなり疲弊したことを今でも覚えている。



「もう少し人が少なくなってから帰るか…。」



図書室の窓から外の様子をうかがいながら適当に棚を回って本を取り出していく。


『日本とオオカミ』
『花火の仕組み』
『君のエガオ』




見事に統一性が無いなぁ…と自分でも感じる、がすぐにどうでもよくなる。

本を選ぶ基準なんて何も無い。

右から順番に、だったり
表紙が目に留まった、だったり
他の本より飛び出てた、だったり…


私にとって本を読むことはただ時間を過ごすための手段、だ。
他に何か趣味があるわけでもなかったから。




「貸出をお願いします。」


いつも放課後は図書部員がいる図書室のカウンターには司書のおばさんが1人座っていた。
声も穏やかで柔らかな笑顔のかわいらしいおばさんだ。


「あら、本田さん。今日は3冊ですね。この前の古典のは面白かった?」


会話をしながらも手際よく処理を済ませる、慣れたものだ。


「はい。勉強になりました。

「そう、それはよかった。はい、貸出手続き終わりましたよ。」

「ありがとうございます。」


淡々と事務的に会話が終わり、図書室の出入り口に向かう。
もっと愛想良くするべきなんだろうが、どうやったらいいのか、高2になった今でも分からない。

と、言うのは

私の顔はまるで仮面が貼り付いてしまったかのように表情がない。
表情をころころ変えて話が出来るような友人もいない。


というか心が凍りついてしまったかのように何も響かない。

自分がどうやって生きてるのかも時々分からなくなる。



そんな私の評価は中学の頃からずっと

「鉄仮面」
「何考えてるか分からない」
「プライド高い」

の3点セットである。
最初の評価はまだしも後の2つは私と話したこともないのに、と思わなくもないが、すぐにどうでもよくなる。




図書室から出ようとすると入り口付近の新刊コーナーに目が留まった。


ひとつひとつ全て本立てで並べられている。

文庫本や文芸書は前列、専門書だったりちょっとマニアックな本は後列に置かれている。



前列の人気作家の新作小説よりも後列のある写真集が目に留まった。



本の名前は『COLOR』



パラパラとめくって中を見てみると

色鮮やかな風景写真がそこにはあった。


青い空や白い雪景色、黄色い顔を一斉にこちらに向けているひまわり畑…



まるでこの世のものではないような気分になって、何だか胸の辺りがモヤモヤしてきた。



本を閉じ、静かに図書室を出る。


廊下の窓から空が見えた。




「私の空はずっと灰色だよ…。」





いつの間にか校舎内のざわつきも収まって静かになっていた。




***********




帰り道は嫌いだ。


はっきりとあの時の光景を思い出すわけじゃないけど


心がざわついて落ち着いて帰れた試しは無い。




今日も苦痛と戦いながら家路を急ぐ。




家に着くまではだいたい自転車で20分くらい。


暗くなるまでには帰れる。





…〜♪


「ん?」


道程の半分ぐらいのところでギターの音が耳に入ってきた。


それに続いて、誰かの歌声が重なってくる…。


何だか悲しくてでも力強くて…。


メロディー自体がそんな感じだったけど、アコースティックギターの音でそれがより強調されているような気がする。



不思議と自転車をこぐ足が止まっていた。


もっと近くで聞いてみたい。



ここ数年、こんなに心が動いたことはなかった。




気づいたら自転車を降りて歩き出していた。




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