Dear…

長期出張(1/24)







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ー唯人side


やっと終わった
デスクの上にバラバラに散らばったプリントをまとめて、パソコンの電源を落とす。
「木崎くん、お疲れ様」
同僚の白石が、煎れたてのコーヒーを俺に手渡した。
「お、さんきゅ」
今日はもう上がれる。
やり残した書類もないし、面倒くさい接待もない。
早く家帰って、心と一緒に飯が食いてえ。
あ、帰りコンビニ寄って心にメロンパン買ってってやろうかな
コーヒーを飲んでる時間すら惜しくなって、思わずぐっと飲んでしまった。
「あっち
「ふふ、そんなに急いで飲むからよ」
白石はクスクス笑って、俺を見る。
「そんなに早く帰りたいの?彼女のところに」
や、そんなんじゃねえけど」
本当は、一分一秒でも早く帰りたい。
疲れた時は特にそう思う。
「婚約中の彼女がいるって話、本当だったんだ」
そこまでは、いってねーけどな」
婚約、ねぇ
誰だよ、話盛ってんの。
「白石も、もう帰り?」
「うん」
一緒なら丁度良い。
オフィスの電気を消して、鍵を閉めた後、エレベーターに乗って下へ向かう。
「彼女、同じ年?」
「ん、同じ」
「へー。木崎くんて、年上のイメージあったけど」
「年上は興味ねぇよ」
高層ビルも、さすがに夜には誰もエレベーターを使ってないからか早く下に着いた。
「じゃあ、また。お疲れ」
「うん。じゃあまた明日」
駐車場の前で別れて、鍵をクルクル回しながら車に向かう。
エンジンをかけ、駐車場から出て少し走ったところで、白石の後ろ姿を見つけた。
早く帰りたいものの、見過ごすわけにもいかず、白石の横に車をつける。
「送る」
「大丈夫、気にしないで」
「いいから」
そう言ったら白石は素直に頷いた。
「どの辺だっけ?」
「んー、もうちょっと行ったところのマンション」
「じゃ、近くなったら言って」
「うん」
BGMだけが流れる車内。
いつもいろいろ言ってくるくせに、意外と喋んねーんだな。
「いつも歩き?」
「ううん、今日はたまたま」
「ならいいけど」
「木崎くんの車に乗せてもらったなんて言ったら、みんなに羨ましがられちゃうな」
俺は殴られるな、多分。
白石は男性社員のなかでダントツ人気だ。
もう一人の同僚も、実際白石のこと好きだしな。
「次、右ね」
そう言われて右折すると、目の前にでかいマンションが見えた。
いいとこ住んでんだなあ。
「ありがとう。送ってくれて」
「ん」
「嬉しかった」
ニコッと笑顔を向けた白石は、普段のクールビューティーな姿とのギャップがある。
まんまと引っかかってしまってる同僚を哀れに思いながら、車を出した。


ふと、ケータイの画面を見ると、心からの不在着信が入っていた。
緩む頬を抑えつつ、心の待つ自宅へ急ぐ。







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