Dear…

最終章(1/24)







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ー唯人side


一度も入った事のない、広い部屋。
座り心地の良過ぎるソファーに腰掛けて、目の前には入社式でしか会った事のない人がいる。
とんでもなく偉い人だって事は分かる、どんな反応したらいいかわかんねーくらい。

「急がせるようで申し訳ないが、一ヶ月以内には返事聞かせてくれ」
話は聞いてる。
聞いてる、けど。
思いもよらない言葉が、右から左に抜けていく。

「はい」としか返事は出来なくて、深々と頭を下げ、丁寧に重いドアを閉めたら部屋を後にする。

自分のオフィスに戻り、デスクに座ると、重いため息が出た。
突然すぎて頭がついていかない。

あと一ヶ月ある。
とりあえず、今はまだ。
まだ、な。

家に帰り、心の手料理を食べた。
心はなんか仕事があるらしく、慣れない手つきでパソコンをいじっている。

夕食を食べ終え、リビングの机の上でパソコンをカタカタやってる心を後ろから腕の中に閉じ込める。

「ご馳走さま。超うまかった」
「本当?よかった」
ふふ、っと笑う心が愛おしい。
「何してんの?」
パソコンの画面を見ると、文字がたくさん入力してある。
「お遊戯会のね、台本作り」
さっと見たところ、白雪姫っぽいストーリー。

「え、白雪姫三人いんじゃん」
「だって一人の子だけ主役にする訳にいかないんだもん〜、三人でも少ないくらいだよ」
あー、そういえば今のお遊戯ってみんなが主役なんだよな。

「ねえ唯人、これなんか変なんだけど
相変わらず機械に弱い心は、パソコンもお手上げっぽい。
「あ、ありがとう!本当何でも出来ちゃうね〜」
まぁ誰でも出来るんだけど。
可愛い奴。
「ん、終わったー!」
そう言って心はパソコンをパタンと閉じる。
「終わった?」
「ん、終わったよ」
心をぎゅっとしたまま、手をつないで指を絡ませる。








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