あだ花は慟哭しない。

[哀が壊れた男の子](1/5)


俺の幼馴染みが度を越して猫被りなことは、多分俺しか知らない。
幼馴染みの家族も、まぁ多少ひねくれた性格を外では適度に隠してるぐらいにしか思ってない。

幼馴染みの吉野は確かに子どもらしくない思考をしてはいるが、俺にとっては既に当たり前になってることで大して気にするほどでもなかった。
むしろ、実の親にすら本性を器用に隠す吉野が、出先でも化けてられるようフォローするのが俺の役目なんじゃないかと思う昨今だ。……そんなわきゃねーか。

だがまぁ吉野のフォローは今も昔も俺にしかできねーし、それが役目でも別に不満はない。
ただ多少やりきれない気持ちになる時があるだけだ。

三ヶ月ほど前に起こったとある一件を皮切りに、ここしばらく特にそれが顕著だった。

──順を追って振り返ってみようか。ちょっと長くなるだろうが。


‐‐‐‐‐


そもそもは吉野に好きな人ができた時のことに遡る。

去年同じクラスで隣の席の子と仲良くなったって聞いたのが最初だった。


『周のクラスは今日体育あった?』

『スポーツテストだろ?やったよ』

『そー!紫苑がね、結構足が速くて。意外だったなぁ』

『そっかぁ?あの子結構細いし身軽そうじゃね?』

『でもあの胸はねぇ。大きいと走る時に揺れるし』

『おまえにはあり得ねーことだもんな』

『確かにー。って、わたしの話じゃくてさ』


吉野が貧乳なのは事実だ。ただコンプレックスでもなんでもないから嫌味っぽく言っても怒らない。


『ハイハイ、“シオン“の話の続きね』

『そ。遠投はあんまり得意じゃないみたいで、めちゃめちゃなとこにボールぶっ飛んでった。あの時の恥ずかしそうな顔は可愛かったなー』

『結局そこに行きつくわけね……』


今日のシオンはこうだった、シオンとこんな話をした、シオンはいい子なの、可愛いの……

家が近所の幼馴染みだから、部活も同じ吉野とは当然帰り道も同じ。その道中で、その日にあった“シオン”との話を聞くのがこの頃の俺の日課だった。


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