あだ花は慟哭しない。

[明日には忘れてる](1/4)


グラウンドからあの子の姿に気づいた日の翌日、校内であの子の噂が耳に入った。


『多分ホント。見た人が結構いるみたいだし。昨日の放課後キスしてたんだって。相手はほら、同じC組の……、』
『え、あの人の彼氏うちの卒業生でしょ?二股ってこと?』
『……ちょっと本人に尋いてくる!』


この会話を偶然聞いたのは昼休みに廊下を歩いてた時で、わたしはへー、と思った。
ちょうどいいからついて行って盗み聞きすることにする。

知り合いじゃないけど男の名前は聞いたことがある。つまり有名人、てことは校内の人気者。
だから噂が広まるのも速かったんだろうけど。

教室の入り口付近に立って、こっそり聞き耳を立てる。怪しさ全開だけど、わたしを不審な目で見る人はいなかった。
……だってみんなあっちに興味津々だから。

『いつからつき合ってたの?』
『てか彼氏いるんじゃなかったっけ?サッカー部の先輩の』
『まさか二股じゃないよね?』

女子からの立て続けの質問に、当事者でもないわたしでもウザいと思った。
あの子も露骨に顔を顰めてたけど、ちゃんと質問に答えてあげてる。


「ちょっと前に彼氏とは別れたから」


……、へー。そうなんだ。先輩ざまあ。

その後も、

『そもそもいつから仲良かったの?』
『一緒にいる時なに話すの?』

と質問攻めは続いてたけど、ウザかったから適当に聞き流した。

あの一番しつこく質問してる子は、つまり相手の男子のことが好きなんだな。

両側にいるふたりは単なる付き添いか。あの子が二股かけてるわけじゃないことを確認した後は黙って見てる。

むしろしつこく食い下がる友達を見て呆れ顔だし。

何が悪いってことはないはずなんだけど、あの子はもともとあんまりいいイメージを持たれてない。
わたしが例の先輩のこと好きだったことになってるから、それ知っててつき合ったんなら略奪女だって当時も陰で言われてた。

まぁ先輩とはつき合ってたわけじゃないから略奪はされてない。てかそもそも好きですらなかったから、その件でわたしはひとつも傷ついてないけどさ。

あの子は見た目が派手な上に女子同士の群れに所属しないから、異性からは誤解されるし同性からは嫌われるタイプだと思う。

あの子が質問攻めされてるのを、後方から見てニヤニヤしてる男子を見てたらスーッと頭が冷める。
こいつらの頭の中でどんな低俗な想像がされてるかなんて興味もないけど、ひとつ言えることは『その想像、なにひとつ当たってないから』。

て思ってたって口に出せるわけじゃないしそろそろ行こうかな、と思ってた時。


「ねー」


女子同士の会話(と言うには一方的だったけど)に割って入る男子の声に、わたしは顔を跳ね上げる。

それは渦中の人物の声で、つまりあの子と噂になってる校内の人気者で…


「えっ」

「行くよ〜」


教室にいる誰よりも呆気に取られた顔をするあの子の腕を引き寄せたその人は、騒然となる周囲を置いてきぼりにして去って行った。当然、あの子ごと。

わたしはあの子の視界に入らないように身を潜め、数秒後には何事もなかったようにその場を離れた。


『いつから仲良かったの?』も、『一緒にいる時なに話すの?』も。
尋きたかったのはわたしも同じだった。

あのウザい子と同レベルとか死にたいわ……。

さっきの様子だと噂は単なる噂じゃないんだろうなぁ。てことは勘違い男じゃない真っ当な彼氏ができたってことなんだろうか。

昨日の放課後に目撃されたらしいから、もしかしたらわたしが木陰に隠れてるあの子に気づいた時はもうその後だったのかも。




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