["音"の正体](1/7)
あの 一杯を交わして以来 彼は言葉通り週一 店に来ては私を指名した
その度に私は 受け持っていた客を他の子に任せ 彼についた
――正直 彼が来て ボーイが私を呼ぶ度に客は不機嫌になる
申し訳ない気持ちになるけど 美月さんがどうしても彼を優先してほしいと私に頼んできた
だから いつも彼が来る日は客に謝りながら席を離れている
罪悪感を感じる反面 私の体は 呼ばれる度に心臓病なんじゃないかってくらい胸が高鳴っていた
その胸の高鳴りは 穏やかになるわけもなく 日に日に音と拍数が増して行った
｢相変わらず No.1の美羽はモテモテだな
客に睨まれたよ｣
――その音は 今彼とVIPルームにいても変わらない音
寧ろ激しくなるだけだ
部屋に入るなり ドカッと赤いソファーに偉そうに座る
｢――そう思うならタイミングを見て ボーイに呼びに行かせてくださいよ｣
グラスを取り テーブルに置きながら隣に座る
｢俺が行かせてるんじゃくて オーナーが呼びに行かせてんだよ
――それに ハゲデブの親父相手なんかより俺のほうが断然いいだろ｣
サングラスを取り タバコを取り出し 済ました顔をしながら彼―詩呉様は言う
――――っ！
内心その言葉にドキンとしながらも冷静に返した
｢…両方とも 私にとって大切ですから｣
お酒と灰皿を彼に渡した
最近―…
命令口調や俺様口調(ナルシスト発言も)が激しい
仕事の調子のままなのだろう―…
私達は最初に比べて お互いのことも話したりした
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