悪人になります
[悲しい決断](1/1)





 ある日少女は決意した。


 悪になろうと。





「だってね、所詮自分の気持ちも他人の気持ちもわかりっこないけど、知りたいの。この世界の根っこは暗い世界にある。本当のことは悪が知ってる。私世界を見たいの!悪人になるっ」




 阿呆だと思った。阿呆以前に謎だと思った。謎がその場を支配した。いや、そもそもこいつはいつだって謎なのだ。




 安佐南梨子、19歳。天才。




 城山一郎、19歳。凡才。







「安佐南とどういう関係なわけさ?」
 くわえ煙草に無精髭、やる気のなさを固めたかのような眼球の濁り。短く刈り込んだ坊主頭のその鋭い視線に射竦められて眉をひそめた。
「どういう関係もくそもねーよ、同中同高おんなじ部活ってなだけー」
「へー、部活ってなにやってたんだよ?」
「剣道」
「…そりゃまた…いいねぇ」
 にやりといやらしく、実際この男の頭にはあれとそれしかないのだが、口の端を持ち上げて笑う様は案外ぞくりとした色気がある。肩をすくめてみせた。
「やめとけってあいつは、まじで」
「あー?なんでだよ?超可愛いもん、無理」
 ため息をつく。阿呆がここにも一人。




「やめとけ。あいつに手ぇ出したら殺すぞ」




 いやらしい笑みを張り付けたままひゅーいと無精髭が口笛を吹く。いや、殺されるの間違いだっけ?





 まぁ、似たようなもんだ。





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