後悔
[甘ったれ](1/34)
それから数日が経った。
ケイスケはあの日の別れ際、「俺とのこと、焦らないでいいから考えてみてくれたら嬉しい。」といつもの笑顔をみせた。
私を気遣ってのことだと分かる。
だけど、答えはなにも出てなくて、出そうにもなかった。
もしかしたら、1つ気がかりな事があるのも原因なのかもしれない。
それは、あの日ケンジさんは店を出て行ってしまい、ちゃんと話せないまま別れてしまったこと。
何となくあれからケンジさんとの距離ができた気がすること。
店でも会話らしい会話はなく、最低限の仕事の話だけ。
それ以外の話はしない。
みんなでご飯いっても席が隣になることもなくなった。
なんせ、ケンジさんは私の顔を見なくなった。
だからといって、他の部分ではケンジさんの様子は変わりなくごく普通。
それは自然なようで不自然だった。
ケンジさんは私を避けてるんだろう。
巻き込んだこと怒っているのか、またゴタゴタしたことに呆れたのか。
ケンジさんに話したいような、でも、とてもこんな状況じゃ出来ない。
答えは…、正解はなんなんだろう。
ここ数日、一人でグダグダと答えのでない毎日。
そんな毎日に疲れ始めたある日の朝、いつもよりも少しお店に早めに来た私は、磁石で引き寄せられるように店の一番奥へと歩いた。
ケンジさんに話すことも出来ず、どうすればいいのか分からない。
私はケンジさんの聖母像を見上げた。
見上げた褐色の聖母は、優しくうつむく。
どんなに眺めても、何の言葉もない。
その表情は慈しみや哀れみが混じりあって見えた。
全てを受け入れ許し、大きな優しさで包みこむよう。
その時、不意に後ろに気配を感じた。
「悩んでんのか。」
振り向いたそこにはケンジさんが立っていた。
もう私より先にお店に降りてきていたのか、まさか私が足音やドアの音に気づかなかったのか、いつの間にか。
ケンジさんは久しぶりに仕事以外の言葉をかけてくれた。
その像を見上げていて、私を見てはいなかったけど、確信をついた一言。
今なら話せるかもしれない。
けど。
「…いえ。」
やっぱり、言えない。
またこんなとこになってしまったなんて。
ぐだぐだしている事をもっと呆れられてしまうと思うと言えない。
それなのに。
「単純なことなのによ。何悩んでんだか。」
ケンジさんは私が「いえ」と答えたにも関わらず話しはじめた。
ケンジさんには私の「いえ」は「はい」だとバレてしまっているみたいだ。
あの後何があったのかもきっと大体察しているのだろう。
「お前の気持ちはお前にしかわかんねぇよ。自分気持ちの感じるままに動いてみればいいだろ。」
ため息混じりのケンジさんの言葉。
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