後悔
[携帯電話](1/16)
ほどなくして着いた、自宅のマンションの前に立つと、たった一晩部屋をあけただけなのに久しぶりに帰ってきたような感覚がした。

一人暮らしの住人ばかりのマンションの廊下はすごく静かで、やけに鍵を開ける音が響く気がする。
冷えた部屋のストーブのスイッチを入れ、コートを着たままソファに身を沈めた。

コートのポケットに入れっぱなしだったケータイの存在を思い出す。
そういえば、しばらく見ていないし、マナーモードのままだった。
今やケータイに執着のない私はこんなのいつもの事だ。

高校生の頃の私なら、こんなに放置するなんてあり得なかったのに。
その頃の私はケータイがないと生きていけないんじゃないかというくらいケータイに固執していた。

常に持ち歩き、トイレはもちろんお風呂でさえもすぐに手の届くドアの前に置いたりして。
今思えばコレはやり過ぎだったとは思う。

だけど、それだけケータイは家も学校も別々の街だった私達が繋がる1番大切なツールだった。
ケータイを忘れようものなら、学校なんて迷わず抜け帰ってしまうほど。

偶然ばったり会うなんてあり得ない私達。
会いたいからと帰り道で待ってる事なんて出来ない私達。
どれだけケータイが大切だったか。

ケータイに固執しなくなったのはケイスケと別れた後。
わざわざケータイに触れないように自らしたんだ。
ケータイを持っているとどうしてもケイスケの声が聞きたくて聞きたくてたまらなかった。
だから、解約したんだ。
連絡しようのない環境にあえてしないと、ケイスケからの連絡をどこかで期待してしまっている自分を振り切れなかった。

電波をなくした誰にも繋がらないケータイ。
残るメモリや発着履歴は全て消した。
友達の番号やアドレスさえも。

ケイスケからの最後の電話の後、しばらくはもうケータイなんて必要ないと契約もしなかった。
あの時、ケイスケが教えてくれた新しいケータイ番号をわざと聞き逃し、ケイスケの自宅の番号だって覚えてない。
ケイスケと繋がらないケータイなんて必要なかった。
もっとも、番号がわかっていたとしても私から連絡なんて出来るわけなかったのだけど。
どれだけ声が聞きたくても。

ただ、来るわけないと思いながらも、やっぱりひそかにケイスケからの連絡がまた自宅にこないかと期待していたのを覚えている。

今は、それだけ連絡が待ち遠しい相手なんか





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