後悔
[偶然と必然](1/14)
暑さが増した8月。
毎日、毎日仕事を精一杯やる。
いつかの夢だった美容師ではなく、あくまでもアシスタントとしてサポートするのが私の仕事。
みんなが仕事をしやすいように、お客様に快適な時間を過ごして頂ける様に気を配る。
毎日とても充実していた。
ケンジさんに話をしたあの夜から、彼の事は不思議な程にちゃんと思い出に変わっていった。
まさかこんなに変わるなんて思ってもみなかった。
同じ景色同じ音、すべてが澄んで、同じことを毎日しているはずなのに全てが新しい。
心が軽くなったおかげで、今までとは違う気持ちで仕事に打ち込めた。
「アカリ!
明日の14:30に新規1名な!」
「また友達作ってきたんですか?」
「おう!」
オーナー、ケンジさんは30歳。
今から4年前に独立。
ケンジさんはよく飲みに行っては友達を作ってくる。
それからお客さんとして来店して下さる方も多く、そのお陰もあってお店は毎日忙しい。
男くさい格好良さで、頼れるみんなの兄貴的存在で人気も腕も当然トップだ。
私が初めて会った時には、すでに当時働いていたのサロンでも若いのに不思議と貫禄があるまさにカリスマ美容師という言葉がぴったりハマるスタイリストだった。
「アカリ、そろそろ髪カットするか!閉店後な!」
「やった〜!」
私の髪は出会ってから今までずっとケンジさんが担当だ。
あっと言う間に時間は過ぎ、すっかり外は真っ暗。
「ありがとうございました!」
最後のお客さんをみんなで見送り、今日の営業は終わった。
アツシが待ってましたとばかりに満面の笑みでケンジさんのそばに駆け寄る。
「ケンジさん!飯いきましょう!」
「お〜、今日うちの看板娘の髪やるからなー。
そうだな、早く終わったら顔出すよ。」
「…じゃぁ、仕方ないかぁ。とりあえずリョウさんとマコトくんと行きますか〜。」
「「なんだよ、それ!」」
みんなの笑い声が響く。
しばらくすると、私達以外の4人はいつものお店へ出掛けていった。
「よし!アカリやるか。」
「は〜い!楽しみ〜!」
「期待してろ〜。」
私のスタイルはほとんどケンジさんにお任せ。
来店した女の子が私の髪をみて「あんな感じにしてください!」と言うくらい、ケンジさんが作るスタイルは本当に女の子を可愛くする。
シャキ シャキとハサミの音が静かな店内に響くなか、ずっと気になっていたことを考えていた。
どうして、本屋でバイトしてる私をお店に連れてきたのか。
あの頃は彼との事ですごく落ち込んでいて、私の顔つきは相当ヤバかったと思う。
ヘアサロンに相応しい顔では決してなかったはずだから。
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