Sevens
1-1[出会い](1/2)
大都市の1つとして数えられ、日本トップクラスの『ユートピア』平均接続時間を誇る情報化地域である河見(こうみ)市。そんな河見市にある河見高校を舞台にこの物語は幕を開ける。

河見高校1年1組のとある机で突っ伏すように、緊張感なく眠っている男が1人。名を風見 椿(かざみ つばき)という。

今や高校でもユートピアの教育は当たり前となっていて、入学試験でもその能力が見られるようになっていた。中でもただの娯楽であるはずの『ネオコロッセオ』は、その圧倒的な人気から重要度が高く、「強ければ有名高校に推薦で入れる」とまで言われていた。
そしてこの黙して眠っているだけの男、風見 椿はそれをやってのけた。
類い稀なるネオコロッセオの才能を持った椿は中学ではほぼ負け無しで、ネオコロッセオの教鞭を取る教師でさえも倒してしまえる実力であった

「椿」

「あ?」

椿の睡眠を妨げたのは中学からの付き合いの水瀬 蒼真(みなせ そうま)だった。至って真面目な性格が風貌からもわかる。黒髪で少し目の大きな童顔系の男子だ。こちらも推薦組で椿と同等の実力を持つ。椿が「負け無し」ではなく「ほぼ負け無し」なのは、蒼真がいたからである。

「また授業中寝てたの?」

蒼真は椿の前の自分の席に座りながら、呆れたように言う。椿は声をかけられるもなお、机から自分の額は離さないまま返答する。

「6時寝、6時半起き」

「それ仮眠でしょ」

何故か誇らしげに、顔を上げずに指だけを立てる椿に返す言葉もないと言った風にため息をついた。

「ユートピアに面白いゲームあったから…。一昨日は結構寝たから大丈夫」

「4時寝、6時半起きは一般的には『結構寝た』に含まれません」

「で、何の用?」

椿は形勢不利な睡眠論争を流して本題に入るよう促す。いつだって正論を突き付ける蒼真のことを言いくるめられたことはほとんどなかった。

「ああ。もう高校生だしチーム作らないかなと思って」

「ネオの?」

椿はそこでやっと顔を上げる。

「うん」

驚いたように顔を上げた椿に蒼真は相槌を打ちながら苦笑する。いつも声かけた時にこれくらい反応がよかったらいいのにと思ってのことだった。

「7人までだったか?」

「3人〜7人」


ネオコロッセオの団体公式戦に参加するにはチームに所属しなければならない。チームは学生のうちに結成してしまう者が多数である。卒業と同時に解散するチームが半数以上だが。現代では1人につき1台ユートピア端末を持っていて、チーム登録もその端末から簡単に手続きができるのだ。

「じゃあメンバー探さなきゃならないじゃん。で、何してんの?」

問い返した椿の目の前で、蒼真が既にユートピア端末を開いていた。

「どうせなら同じ学校でメンバー組めるといいかなと思って、ここ最近で河見高校からログインした人のネオコロッセオの対戦履歴見てたんだ」

「まあまずは近場からってことか」

ユートピア端末に目を凝らす蒼真が1つの名前を捉える。その人物の名前の横にはいくつもの勝利という文字が並んでいる。特筆すべきは勝利数だけではない、戦闘をこなしている回数も尋常ではないのだ。蒼真は椿に何も言わずにユートピア端末を見せる。
雷前 灯弥(らいぜん とうや)と書かれた名前の最終ログインは5分前、3階のアクセス室からであった。

3階アクセス室。DBにアクセスする為の専用機材が所狭しと並ぶ部屋。一昔前で言えばパソコン室のようなものだ。昼休み終了間際という事もあり、その「強者」はすぐに見つかった。

「今、ネオやってたのは君か?」

DBにアクセスするための頭に被る機材を脱いだ少し色黒垂れ目のその人物に椿は声をかける。

「ああ、そうだよ。ところで今何時?」

彼はにこやかに肯定するが、次の瞬間には焦ったように椿に尋ねる。

「何時?」

腕時計を付けていない椿は後ろにいる蒼真へとたらい回しにした。

「12時55分」

「マジか!やべぇ、次教室移動だ」

蒼真が現在時刻を伝えるや否や彼は荷物をまとめて慌ただしく走り出そうとする。

「急いでるみたい」

その様子を見た椿は再度後ろを振り返り呑気に言う。

「お名前聞いてもいいですか?」

「俺?雷前 灯弥」

もう既に彼が雷前 灯弥であることの目星はついていたが、確認の意味を込めて蒼真は名前を聞く。灯弥はアクセス室の扉を開け、首だけ蒼真の方を向けながら答える。

「話を聞いてもらいたいんだけど放課後もここ来るか?」

「来るよ!ごめん本当に急いでるからまた!」

椿の問いに対して手短に返した灯弥がアクセス室を出た瞬間、無慈悲にも予鈴が鳴るのであった。そんな落ち着きのないやり取りが、椿と蒼真の「チームメイト」との最初の出会いだった。

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