短編集『ほどけた靴紐を結んで』
[『春:野球の神様』](1/14)
児島隆司は高校2年生。
神奈川県の私立島津高校の野球部に所属にしている。
無名の高校を甲子園に行かせるという野望に燃えている。
父、児島 一(はじめ)は普通の会社員でぺいぺいの平社員であった。
彼も青春時代の全てを野球に費やした。
結果は3年間の全ての大会で、一回戦敗退という体たらくであった。
その悔しさを胸に秘め、息子に夢を託した(えらい迷惑な話しぢゃ)。
母、美咲はそんなふたりを優しく見つめ応援していた。
隆司には3つ離れた妹が居た。
名前を美恵子といった。
彼女は中学のときはとにかく身体を鍛えようということで、陸上部に入った。
競技の方向性を問われ、短距離走にした。
筋肉の着き方が、一番自分の将来目指す方向に合致していたからだ。
美恵子も野球を目指していた。
児島隆司には中学時代からのライバルが居た。
名前を花田 貞雄(さだお)といい、県内有数のリトルリーグに所属していた。
中学校の野球部にも顔を出してピッチャーで4番打者を任されていた。
隆司は同じ野球部の3番打者でサードを守っていた。
中学時代は花田 貞雄のお陰でいくら活躍しても女子たちは彼に見向きもしなかった。
小学生の美恵子は寝る前に寝室の2階ベッドの上でお兄ちゃんにこんな事を言った。
「あそこでお兄ちゃんがファインプレーをしたから勝てたんだよ。みんな知ってるよ。だからお兄ちゃんにMVPだね」
「分かったよ。サンキュウな!早く寝なさい」
「うん!おやすみ」
隆司は爽やかに答えたが、内心ではじくじくしていた。
“あいつめ!ワンナウト2、3塁で勝負焦ってストレートで真ん中行きやがって!その結果同点に追い付かれちまったじゃないか!”
“あそこは内角低めの変化球だったよな。打たれても凡打になる可能性が強かった”
その年の中学生地方大会は準決勝で破れ、全国大会には進めなかった。
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