ピエロ・ゲーム
7†[平凡な男](1/16)
「おい、もう一回言ってみろ!」
ガラスが割れる音とともに奥のテーブルで怒声が上がり、彼はキッチンへ向かう足を止めた。
他の客も、何事かと言うように振り返っている。
足早に様子を見に行くと、金髪を逆立てた若い男が肩を怒らせて、向かい側に座る連れの女を睨みつけていた。
「タカシ!そ、そんなに大きな声出さないでよ……。飲みすぎじゃない?」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。ユミ、お前今別れたいって……マジで言ってんのかよ?おいッ!」
周りの視線を気にしている女と、興奮した様子でさらに声を上げる男。
どうやら、女の方が別れ話を切り出したらしい。
この大勢の目がある、居酒屋で……。
「俺、お前にいくらつぎ込んだと思ってんだよ。カネが尽きたから、別れるって言うのか?この薄情女が!」
「ち、違うって。あたし、留学するの。それで……」
「留学だぁ!?お前、身勝手もたいがいにしろよ!!俺から逃げようと思っても無駄だからなッ!」
男は拳でテーブルをドンと叩きつけ、女の座っている椅子を蹴った。
その横暴さは、決してアルコールのせいだけではないだろう。
「タカシ、やめてっ……。そういう短気なところが嫌いなのよ!」
「何だとォ!?調子乗んじゃねええッ」
男が激昂して腕を振り上げる。
「……お客様。店内での乱暴はお止め下さい」
すかさず、彼は男の腕を掴んだ。
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