妖精は月と舞う

想望のワルツ (1/98)




 時はシーズン真っ只中。

 王都は今シーズンに社交界デビューしたいわゆるデビュタントと呼ばれる若い令嬢や、田舎領地から出向いた上流階級の貴族達でいっそう華やいでいた。

 毎晩のようにどこかで舞踏会が開かれ、将来の伴侶を見定めるべく彼女たちは磨き上げた容姿と教養を駆使して必死に愛想を振り撒き、ダンスの誘いを今か今かと待ち焦がれる。

 しかし舞踏会はなにも若人たちだけの戦いではない。両親にとってもいかに自分の子供を名だたる公侯爵家の目に留まらせるかという大きな戦いであった。

 我が子が壁の花にならぬようあれやこれやと助言を加え、ドレスはこのデザインがいいやら流行の髪型はこうだやら、時には専属のスタイリストやダンス教師をつけながら立派な淑女としての教育を施すのだ。

 オフシーズンになる頃には密やかにいくつもの恋人たちが誕生するが、婚約にまで至らない場合もある。身分違いであったり、親が相手を認めずに他の相手を見繕って決めてしまうこともあり、乙女の純な恋が儚く散ることは多々あった。

 そしてオフシーズンになると何割かの貴族達はまた田舎領地のカントリーハウスに帰り、王都は平常運行に戻っていく。

 それが王都のシーズンの風景。

 田舎育ちの、まして貴族でもないシーナにはそれらは全て未知の世界だった。



「シーズンの間は協会も舞踏会の警備に駆り出される。国営騎士団は私事には動かないからね」


 ミレイアの言葉にシーナは首を傾げた。


「警備ですか?協会は人に対しても取り締まりを行うのですか?」

「いや人ではないよ。彼らが警戒しているのは妖精だ。彼らには凶器を持った生身の人間よりも妖精のほうが余程恐ろしいらしい」


 笑ってはいるが言葉の節々に蔑むような雰囲気を感じた。


「舞踏会に妖精が現れるのですか?」

「ほとんどがブラウニーやピクシーのような小物が華やかな雰囲気に誘われてやって来る。だがその中で稀に恐ろしいものが紛れることがある」

「アンシーリーコート……?」

「稀にだ。だからそこまで気負う必要はない。君とアーシーで今度行われる舞踏会の警備をしてほしい。それが仕事」


 最初はアストルを狩れと言われた。

 だから今回はどんな無理難題を突きつけられるのだろうとビクビクしていたのに、どうやら本当にレベルに合わせて仕事を選んでくれたらしい。




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