妖精は月と舞う
妖精を知ること (1/23)
空を見上げれば太陽がギラギラと照りつけている。
暑い、そして眩しい。
アストルは己の体力を奪うそれに忌々しげに目を細め、足早に露店の日陰へと移動した。
前を歩く少女はそんなアストルの様子に気を配る暇はなさそうだ。というより、川沿いにズラリと続いているいくつもの露店に目を奪われている。
この少女、森からほとんど出たことがないという生粋の田舎者。露店が余程珍しいのだろう。
「おじ様、これは何ですか?」
キラキラした目で、露店に並ぶ赤色の何か生き物を型どったような置物を指差す。
──何だ?買う気か?
「これは魔除けのお守りだよ」
「魔除け?」
「ああ。アンシーリーコートにも効くし厄除けにもなるよ。どうだい?」
「アンシーリーコート……」
シーナは置物を手に取り少しだけ何かを考えると、アストルの眼前にずいっとそれを突き出した。その行動にシーナが何を考えているのかなどアストルには考えずともすぐに分かった。
ユリの花で痛い目を見たことをもう忘れたのだろうか。冷静に、そして冷ややかにその無言の問いかけに答える。
「………痛くも痒くもない」
「そうなのね」
心なしか残念そうだ。
だがすぐに露店の店主に向き直り、カバンから財布を取り出した。お金を預ける機会もなく、ケルピー狩りで得た賞金も含めたお金の管理は全てシーナが行っている。
「おいくらですか?」
「結局買うのかよ」
「いいじゃない、可愛いんだもの」
──可愛い?人間はそれを可愛いと言うのか!?
一応名称的には魔除けというだけあって、それは鬼のような形相をしていて一見アンシーリーコートのようにも見える。
人間の感性がおかしいのか、この少女の感性がおかしいのか。それともアストル自身がおかしいのか。
「六カリンだよ。それにしても嬢ちゃんは随分とシーリーコートに好かれてるんだね」
「え?あ、いつの間に」
店主が指差す先には二匹の妖精。
シーナの髪の毛で楽しそうに遊んでいる。
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