最終章[
偽の者・純の者](1/30)
「こんにちは」
友達を待ってベンチに座っていたら、突然話しかけてきた女の人。
「……こんにちは」
「今1人?隣座っても良いかしら」
しかし頷く前にその人は私の隣に座った。
終始笑顔のその人は、作っている感じがあからさまで、しかも強引だった。
この人が何か企んでいるというのは、小学生の私でも分かった。
人より勘が強いということもあったけれど。
警戒心はわざと丸出しで、その人を見た。
そんな私を見て、その人は声を上げて笑う。
「大丈夫よ。確かに怪しい者かもしれないけれど、あなたを取って食ったりはしないわ。
私はこういう者よ」
そう言って渡された名刺を見る。
「“スギタマサミ”さん?」
「マミよ」
「あ……、ごめんなさい」
「良いわよ、気にしないで」
しかし私は申し訳なくて顔を伏せる。
名前を間違えられた時の苛立ちは、私も知っているのに。
「あなた、育ちが良いのね。名前を間違えて謝れる子なんて、そうそうにいないわ。大人でも謝れないのよ?」
「そう、なんですか……?」
「えぇ。あなたの名前は……?
……なんて野暮な質問ね。初対面に名前教えるなんて。
その名刺に書いてある通りだけれども、私は芸能事務所の者です。あなた、モデルに興味ない?」
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