コード:ブラッド
[ドラッカーU](1/15)



何故、私はあの時和也を突き放してしまったのだろう。

前を見ず、俯きながら宛もなくただ歩いていた。

不意に、すれ違った誰かの体にぶつかる。


「......ごめんなさい」


自分でも珍しいと思った。

こうして前を見ずに歩いていて、人とぶつかってしまった経験は未だかつて味わった事が無かった。

私は『化け物』故に五感が研ぎ澄まされている。

正面から接近して来る人間くらい、前を見なくても容易く避けれる。

けれど、何だろう。

和也の事が気になると、古傷が痛むように心が疼いた。

和也の事を考え込んでいたせいで、当たってしまったんだろうか?

ため息を吐き、頭の中の羽虫を振り払おうとするけれども、なかなか離れてはくれない。

寧ろ、思いは底なし沼に踏み入ってしまったかのように、もがけばもがくほど、深く沈んで行く。

和也が嫌いだから?

違う。

そんなんじゃない。

なのに、私は和也を突き放してしまった。

もう、嫌われちゃったかな?

あの時、周りにいた誰もが私を見て怯えていた。

目の前で起きた不可解な現象を見て、誰もが驚き、恐怖を感じていた。

和也が私に近づこうとした瞬間、『見えない何かに追い返された』ように跳ね飛ばされた。

目には見えない何かが、和也の体を跳ね飛ばした。

そしてその瞬間を周りにいた人たちは目撃してしまった。

一部の人は私の顔を見るなり睨みつけていた。

そして、その人たちの心の中からは妙な気持ちを読み取った。

あそこにいるのは『この街を恐怖に陥れた悪魔』じゃないだろうか?と。


ドクンッ......!!


心臓が高鳴る。

私は、何かを忘れている気がした。

それは、記憶が無くなる前の事なのかもしれない。


頭の中に破壊された街の風景が映る。

燃え盛る建物。

車道に放置された車輌が、倒壊した建物の下敷きとなっている。

そして、人間までもがその『餌食』となっている。

路上に横たわる死体の数々。

それらは引き裂かれ、焼かれ、瓦礫に潰されていた。

そして、その中央に立っているのは__



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