コード:ブラッド
[小さな能力者 T](1/14)



「みなさーん!おはよーございますっ!
なーんとなんとー。今日は転校生がいるんですよ〜ぉ!!」


担任教師のノリノリな言葉に、クラス中が湧き上がっていた。

その様子は廊下に突っ立っていてもよく分かる。

何せ、他のクラスのホームルームはシーンとしているのにも関わらず、如月がこれから入って自己紹介をする予定の一年六組の今日室だけが騒がしいのだから。

男女問わず、やかましいまでの域を遠に越した、最早試合観戦中の大歓声に包まれていた。

正直に言う。

如月は左右の耳を完全に塞いでいた。

ともあれ、今日がこの学校での初めての登校日。

先程言った通り、クラスの生徒達は転校生と言う言葉に大興奮している。

その様子はグランドにいても分かるだろう。

如月はそう思う。

他のクラスはシーンと静まり返っており、聴こえてくるのはそのクラスの担任の声だけだった。


「えっ、マジっすか先生?!!」

「転校生?!まじかよ、こんな早く!?」

「女子っすか?!先生ーッ!!転校生は、女子ですかーッ?!」

「あたしイケメンがいいなー!!」

「あぁ!?女子は引っ込んでろ!!転校生が男だったらぶっ殺す!!」


どうやらクラスの生徒たちはそれぞれ凄く期待しているようだ。

特に一部は殺意を抱いているみたいだが。

残念ながら、如月は男だ。

このまま教室の中に入っていいのだろうか?

刺される......いや、バットで殴られる......のか。

どちらにせよ、如月は今、命の危機を感じていた。

ともあれ、男子は女子を望み、女子は男子を望んでいるようだ。

男子のみんなの期待を裏切ってしまうようで申し訳ないと如月は思った。

この日、如月は自分が男で生まれて来た事に対し、初めて悔やんだ。

下手すりゃ死ぬかもしれないのだ。

そうなら、誰だって悔やむだろう。


「それは見てからのお楽しみですよー!!ではではー......転校生さん、どーぞ!」


この大歓声の最中、クラスの中に入るのはとても緊張する。

如月の心臓は今にも爆発しそうだ。

できればこの場から逃げたい。

いろんな意味で。

如月は勉強もスポーツも平凡な人間だ。

何かの才能があるってわけでもない。

ましてや、イケメンでもない。


「嗚呼、神よ。どうして......」


そんな言葉を呟き、如月は頭を抱えた。

だが、いつまでもここに立ち止まっているわけにはいかない。

覚悟を決めた。

ドアを開け、クラスの中へ飛び込むように入って行く。

クラスに入った如月は、輝かしい眼差しで見つめられていた。


「あの子真面目そうじゃない?」

「うーん。なんかルックスも良さげだし、菊池とお似合いかもね〜」

「いや、悪だろ!」

「あれはきっと階段下からパンツを拝んでいるような輩だな」

「ぜってーそうだ!じゃなかったら男だからぶっ殺す!!」


生徒たちは隣同士で感想を言い合っている。

中にはわざと大声でと話している生徒もいる。

ルックスが良いと同年代に言われたのは実際初めてな事だ(田舎では近所のオバチャンたちに言われてた気もする)。

それに関しては素直に嬉しい。

しかも、女子に言われた事が尚更嬉しかった。

だが、階段下からパンツを拝んでいるような輩とは......。

どう見たらそんな発想になるんだ?

如月も、ルックスがいいからと言われて調子に乗ったわけじゃない。

(オレって、そんな風に見えるのか?)

しかも、完全に殺意を持たれている。

立ち上がる生徒が何人かいたが、中でもある男子生徒は立ち上がって中指までも立ている。

恐るべし、都会の学校......。


「こほんっ!さてさて〜。皆さん楽しんでいるようですけど、先ずは転校生くん、自己紹介をお願いしまーす!!」


担任の咳払いでクラスが一気に静まり返った。

隣同士で話していた生徒達の視線が再びこちらを向く。

静まり返った上にこちらに視線が一気に集中したせいで、緊張度が頂点に達する。

いや、もう通り越した。


「如月和也です。これから宜しくお願いします」


緊張しながらも、無事に言い終えた。

一段落し、胸を撫で下ろす。


「は〜い!それじゃあ、如月君は後ろの空いている席に座って下さいね〜♪」


担任の指示を受け、如月は席へと向かう。

席は窓際の列の一番後ろだった。

コイツはベストポジション!

正しく主人公ポジションと言うなんちゃらである。

席に着くと、如月は窓の向こう側に目をやった。

新しい学校生活。

友達はまだいないけど、心はウキウキとした気持ちに包まれていた。

クラスの生徒たちの様子を見ても、みんな元気が良さそうな生徒ばかりだ。

この様子ならここにいる全員とすぐにでも仲良くなれそうな気もした。

担任の先生も優しそうな女性の先生である。

宝くじで一等を引いた気分だった。



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