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「……鈴原…」
病院のベッドで眠る鈴原の手を握り、呟くようにその名を呼ぶ。
倒れた理由は貧血だった。
双子を妊娠した場合、貧血になりやすいのだとか。
そもそも双子だったなんてことすら俺は初耳。
鈴原は本当に俺には何も話してくれなかったのだと実感する。
切迫流産というのも原因の中にはストレスもあるらしい。
彼女の幸せを確かに願っていたのに、実際俺がやってたことは彼女にストレスを与え続けていただけだったのかもしれないとようやく気づいた。
今後どうするのかは
鈴原が目を覚ましてお腹の子をどうするのか決断しないことには決まらないらしい。
目が覚めるまでここに居たいけど、俺は1度戻り上司へ報告して、滞ってしまった仕事を終わらせなければならない。名残惜しいがこればかりは仕方がなかった。
「佐久間さん!鈴原さんが倒れたって本当ですか!?」
会社について上司への報告が終わった帰り、ちょうど資料室から出てきた杉野と会った。
彼の話によると、鈴原は昼に課を訪れた際、あるものを落として行ったというのだ。
「これ…本当に鈴原が?」
「はい。俺も信じられなかったんですけど、間違いないです。」
杉野が拾ったそれは退職願いだった。
子どもをおろして、そのうえ仕事まで辞めるつもりだったってのか。
………そこまで、追い詰めたんだよな。俺が。
俺はバカだ。
本当にどうしようもない男だ。
ただ傷つきたくなかっただけだ。
鈴原の口からハッキリとした言葉を告げられるのが嫌だっただけだ。
本当に鈴原の幸せを願うなら、言うべきだった。たとえ返ってくる答えがわかっていても、最初から。
ただ好きだと。
責任をとりたいと。
産んでほしいと。
結婚してほしいと。
何も難しい言葉じゃない。
俺の素直な気持ちを。
そしてそれが叶わなくても出来る限りのことをさせてほしいと。
そう言えてたならこんなにも鈴原を追い込むことも、傷つけることもなかったはずだ。
とりあえずその退職願いを預り、仕事に戻る。
目を覚ました鈴原から折り返し連絡欲しいと連絡があったというメモがデスクに置かれていてホッとしたものの、電話は出来なかった。
鈴原に伝えたいことがたくさんある。
とても電話だけで語られるものではないし、ちゃんと鈴原の顔をみたい。
これまで散々、自分勝手で無責任なことばかりしてきて今さら何をと思われることも重々承知しているし、これは俺の自己満足かもしれない。
それでも伝えたい。
そして鈴原がどんな答えを出したとしても、本当に産まない決断をしたのだとしても。
俺は俺に出来る精一杯のことをしてやりたい。
いや、させてほしい。
こうして俺は
はやる気持ちを抑えながら仕事を終わらせて、病院へと急ぐのだった。