……信じられない。
佐久間は今、なんて言った……?
『お腹の子ども、おろして』
…嘘でしょ。
そういうこと言わない人だって思ってたのに、どうして今になって言っちゃうかな。
冗談だったらいいのに。
そう思うけど、佐久間の表情は全く変わってはくれない。
「……なん…で…」
「だから、俺好きなヤツいるから。いつまでもお前がお腹に子ども抱えたままじゃ、そいつとちゃんと向き合えない」
ようやくわたしが絞り出した言葉に、佐久間はものの数秒で言葉を返してくる。
「でも……どうするのか決めるのはわたしだって、だから自分の意見は関係ないって、佐久間そう言ってたじゃない」
それなのにどうして今になって、わたしが一番イヤな……聞きたくない言葉を言うのよ。
「おろす以外の選択肢があるなんて誰が考えるんだよ。それとも何?まさか鈴原産む気?酔ってたった一晩寝ただけの好きでもない男の子どもを?まさかそんなわけないよな?もしそうなら頭おかしいよお前」
バカにするように鼻で笑ってひどく冷たい言葉を平気で浴びせてくる。それでいて、何ともない会話をしてるみたいに平然と運転してる。
わたしはといえばまだ頭が追い付かないでいる。
ただただ呆然としてるだけ。
佐久間は結局、どうせわたしにはおろすしか道がないと思ってたから、そう言うのを待ってただけなの?
「……佐久間の中では、最初から決まってたの?」
口に出さなかっただけで、最初から。
どうしたい?って聞いてくれたあのときから既に、佐久間の中ではもう決まってた?
そう問えばすぐに当然だというように無言でハンドルを切りながら頷く横顔に胸が苦しくなった。
だって躊躇う様子もない。
すぐに頷けちゃうくらいに、佐久間の心はずっと前から違う方を向いていた。
それならいっそ、わたしが嘘だと言ったときに騙されてくれた方がよかったのに。知らないふりをしてくれていた方がよっぽどマシだったのに。
そしたら
「同意書にサインもするし、費用は俺が払うから」
こんな言葉も聞かずにすんだのに。
芽生え始めていたこの気持ちを、後悔することもなかったのに。