浅葱色の空〜繰り返される時の中で〜
[再び戻された場所](1/30)
文久二年十二月十二日
江戸品川御殿山は、
景勝の地で、江戸市民の行楽地であったが、各国公使は、ここにイギリス公使館を建設することを要求した。
国内からは猛反対が起きたが、結局、幕府は列国の要求を呑んだ。建設は、この年の八月より着工。十二月には、ほぼ完成していた建物に、深夜、男が数人集まっていた。
厳重な警戒を突破して建築中のイギリス公使館に潜入した。メンバーは、高杉晋作、久坂玄瑞ら総勢15名ほど。彼らは、ほぼ完成していた公使館の中を我が物顔で、闊歩(かっぽ)した。
「へぇー。随分と、ご立派な建物じゃねぇか。
なぁ。久坂。」
「はぁ。少しは、黙ってられないの?」
「いいじゃねぇか。幕府だって、
本当は、建てたかった訳じゃねぇと思うぜ?」
はぁ。っと、久坂は、緊張感のない高杉にため息を吐いた。
パリーンッ!パリーンッ!
そう響いた音。どうやら、火炎瓶が投げ込まれた様だ。
「ほら、高杉!
バカなこと言ってないで、行くよ!」
久坂が公使館から出ようとして、後に続こうとした高杉。しかし、彼の足は、停止した。
パチパチと、炎が上がる公使館の中、
ふわり、ふわりと浮かぶ丸い光
襲い来る煙に、高杉は、袖で口元を覆い、光の方へと足を動かした。
火を放った部屋は、赤い絨毯と、炎が見えるだけの筈だった。
しかし、赤い絨毯の上に、桜色の髪の女が、そこに倒れていた。
「ーーっ!!おいっ!」
高杉は、女を抱き上げた。だらりと垂れた腕。
起きる気配は、全くない。目的は、公使館に火を放つ事だ。人を巻き込むつもりは、なかった。
何故、女が此処にいるのか?そんな疑問よりも、とにかく、ここから出る事を優先させた。
女を担ぎ上げ、高杉は、迫り来る炎から逃げ出した。
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