血を流して倒れている弘子の元へ、縁は駆け寄った。
トイレの中に入った縁はすぐに異変に気付いた。
「うん?この臭い……」
縁はすぐさま弘子の脈を確認した。
すると、ようやく桃子と、小林もトイレ前に到着した。
桃子と小林は中の様子を見て、驚愕した。
桃子は目を見開いき、小林は叫んだ。
「ひ、弘子ぉーっ!」
「縁……これは?…」
桃子と小林がトイレに入ろうとすると、縁が大声で言った。
「入るなっ!」
縁の大声に桃子と小林は怯んだ。
縁は続けた。
「小林さんは、今すぐに救急車をっ!そして、桃子さんは警察を……それとホテルの出入口を封鎖するように、すぐにホテルの責任者にっ!」
「あ、ああ…わかった」
桃子はそう言うと、走ってこの場を去り、縁の指示通りにした。
小林は呆然として呟いてる。
「弘子…弘子………弘子…」
縁は言った。
「小林さんっ!弘子さんはまだ生きているっ!しっかりしてくれっ!」
縁の声に我に帰ったのか、小林は慌てて携帯で救急車を呼んだ。
弘子は左の腹部と右肩から血を流している。
縁は自分の着ていたシャツを破り、それを肩にくくりつけて、肩の止血をした。
腹部は残りのシャツを傷口に押さえつけて、懸命に止血をしている。
出血量からして、2箇所とも動脈を傷つている訳では無さそうだか、放っておくと危ない。
止血していると、縁は何かに気付いた。
「ん?ブレスレットが一つしか無い……」
縁の言うように弘子の手首にはブレスレットが一つだけあった。
弘子は確かにブレスレットを3つしていたはずだ。
しばらくすると救急車が到着し、救急隊員に担架で運ばれて行った。
小林もその後を追った。
縁は言った。
「後は医者に任せるしかないな…」
そう言った縁の姿は血まみれだった。
縁はトイレから出ようとすると、足元に財布が落ちているのに、気付いた。
縁はその財布を、指紋が付かないように、ハンカチを使って拾った……弘子の財布だ。
「現金が抜き取られている……」
縁が言うように、財布の中身はカード類を残して、お札だけが抜き取られていた。
縁はその場に財布を置き、トイレを出た。
縁はトイレの入口の隅で震えている、女性客に聞いた。
「トイレには入りましたか?」
女性客は黙って首を横に振った。
すると、桃子が戻って来た。
「縁っ!小林婦人は?」
「今、救急車で運ばれたよ……」
「そうか……まだ生きているのだな…」
桃子は少しほっとした表情だ。
縁は言った。
「これだけの騒ぎなのに……あまり野次馬がいないな…」
桃子は言った。
「責任者に頼んで、野次馬対策をしてもらった。で……何かわかったか?」
縁は言った。
「その話は警察が来てから話すよ……」
数分後、地元の警察がようやく到着した。