天才・新井場縁の災難
[古き善き都 京都編 A](1/3)


……東本願寺(ひがしほんがんじ)……



東本願寺は京都市下京区 烏丸(からすま) 七条に位置する、真宗大谷派の本山の通称である。

きれいに整備された境内は、京都の暑さを少しだけだが、涼しくさせる雰囲気がある。

縁と桃子の二人は境内を歩いている。
縁は境内を見渡して言った。
「きれいだな……なんとなく気持ちを落ち着かせる雰囲気がある」

桃子は言った。
「縁、東本願寺は始めてか?」

「ああ…前に京都に来た時は、ここには来なかったよ」

「なるほど……初体験か」

「まぁね、でも……東本願寺に関する知識はそこそこあるぜ…」

「ほう……それは私も知らない事かな?いいだろう、聞いてみよう」

「何で上から目線なんだよ?…まぁいいや」

縁は話し出した。
「そもそも東本願寺と言う名は、通称で…正式名称は『真宗本』って、言うんだ」

桃子は目を丸くした。
「ほ、ほほう……」

「因みに地元では『お東』『お東さん』とも通称されている…。また、これは少し不名誉な通称だが、この東本願寺は江戸時代に4度の火災にあっている」

「そ、そうなのか?」

「ああ……だから、その火災の多さから、東を弄って『火出し本願寺』と、喩やされた事もあったんだ」

さらに縁は境内の中心にある、巨大な建築物を指差した。
「桃子さん……あれ見てよ」

縁に促され桃子はその方向を見た。
縁は言った。
「あれは『御影堂』って言って、和洋の道場形式の堂宇さ…」

「はぁ……」
桃子はすでに頭に入ってないようだ。

縁は続けた。
「あれの建築規模は間口が76m、奥行き58mもあって、建築面積においては世界最大の木造建築物なんだぜ……」

桃子は頭を抱えた。
「うむ……素晴らしい説明だ、流石は縁だ…」

桃子の様子を見て縁は言った。
「あんた……ぜんぜんわかってないだろ?」

「そ、そんな事はないぞっ!」

「嘘つけ……」

慌てた様子の桃子を見て縁は思った。
……知らないな……と…。

縁の説明にあった、御影堂を見学し境内を歩いていた二人に、一組のカップルが話しかけてきた。

女性は清楚な感じで、男性は恰幅の良く、二人とも20代後半くらいだろうか。

男性が言った。
「すみませんが写真を1枚、撮ってもらいたいのですが……」

縁は快く引き受けた。
「ええ、構いませんよ…」

男性からデジカメを預かった縁は、デジカメを構えた。

「じゃあ、撮りますよ……はいっチーズ」

縁の掛け声と共に、カップルはピースした。
写真を撮り終えた縁は、男性にデジカメを返して言った。
「観光ですか?」

男性は答えた。
「ええ、新婚旅行なんですよ……そうだ、良かったらあなた方もどうです?写真…」

「いや、俺たちは……」

縁が断ろうとすると、桃子は男性に言った。
「撮って頂ければ助かる……縁、せっかくだ…撮ってもらおう」

桃子は勝手に決めてしまった。

縁は渋々承諾した。
「仕方ないな……1枚だけな…」

桃子は男性に自分のデジカメを渡し、縁の隣に立った。

「では、撮りますよ〜!はいっチーズっ!」

桃子は男性の掛け声と、同時に縁と腕を組んだ。
予想外の出来事に縁は少し怯んだが、写真撮影は無事終了した。

男性は言った。
「いや〜、美男美女だから様になりますねぇ…」

そう言うと男性は桃子にデジカメを返した。
男性はこちらに一礼をして、奥さんと観光を続けるために、二人と別れた。

新婚夫婦が去ったのを確認して、縁は言った。
「何で腕を組んだ?」

桃子はとぼけたように言った。
「そんな事をしたか?」

「何を考えてんだ……まったく…」

桃子は悲しそうに言った。
「私と腕を組むのが……そんなに嫌なのか?」

「その表情はやめろ……別に嫌じゃないけど…人前だぞ」

桃子は表情を戻した。
「そうか……嫌じゃなければ良い」

「人の話を聞いてんのか?」

「新婚旅行に京都か……なかなか古風だな…」

桃子には縁の話を聞くつもりは無かったようだ。




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