骨を噛む
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駅に向かう途中のコンビニでお茶を買って
まだ夜明け前の街を歩く。



樹、 と口先だけで呟いた。
寒空の奥に溶けていくみたいに。




樹はもういない。
楓くんは、代わりにはならない。

彼には彼の人生がある。
楓くんに樹の分の人生を背負わせることは
絶対に避けなくちゃならない。




ここしばらく楓くんと再び会うまで
しばらく遠ざけていた哀しみがまた蘇る。
日々を重ねるなかで心の隅に押しやっていた
樹を喪ったことにまだ慣れていない
私の窮屈な心がしくしく泣いている。



私はちゃんと彼のことを
思い出にしなくちゃならない。

もうこんなふうにいつまでも

それこそ、私が死ぬときまで
彼のことを思い続けるのは
きっと辛いことだから。
きっと樹は望んでいないから。

だって私が樹でもそう思う。




いつまでも覚えていたい、縋っていたいのは
生きている側、残された側のエゴだ。

失ったものを大事に大事にして
そんなの、思い出が輝くだけだ。




思い出は消えない。忘れられない。
無理に心の隅に押しやるのではなくて
忙しさで殺してしまうのではなくて

私はちゃんと彼に、樹に
一旦、お別れをしなくちゃならない。









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楓くん : おはようございます

楓くん : 出て行ったの全然気付きませんでした
また落ち着いたら連絡しますね。


楓くん : お仕事頑張ってください。
俺はもうひと眠りします









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