骨を噛む
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みんな、分かっている。

樹はもう死んでしまっていて、
彼はあくまで 楓くんであって
私のかつての恋人ではない。

まだ気持ちが変わっていないとするのなら
彼は私のことを好き、らしく
でもきっとまだ私は往生際の悪いことに
もう二度と会えない樹のことが好きなのだ。




楓くんは、樹じゃない。

自分のことを好きでいてくれる人に
そんなことを言わせて
樹で空いた空間を、楓くんで埋める。
それがどれだけ酷いことか、
いくらアルコールが身体を巡っていても
そのくらい、考えるまでもない。

悲しいことに、そんなことをしたら
死んでしまった樹すらも傷つけることまで
私はちゃんと考えられてしまうのに。



楓くん、酔ってるの、?


わずかに上げた語尾で、かろうじて
疑問形だと伝わったであろう私の問いに
抱きしめたまま上から彼が声を降らせる。


お酒は飲みましたが、酔ってません。
ずっと考えてたことです。
いざ言うとなると踏ん切れなかったから
アルコールの力を拝借したにすぎません


目線を上に向ければ、ゆらりと揺れる
楓くんの瞳と目が合った。


楓として、そして、表 樹として
美穂乃さんが悲しそうにしているのは
俺にとって、2人分つらい。」


その言葉が、引き金だった。と、おもう。



埋めてくれるの、」

美穂乃さんが、拒まないなら

後悔、しない、?

先のことは知りませんが、今は


それが同意だと伝わらないほど
彼は賢くない子ではなかった。



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