骨を噛む
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この世が終わるほど悲しいことが起きても
人間に悲しみは持続しない。

そのことを知ったのは
ふとしたきっかけで感情が溢れて
会社のトイレで泣いてから

2回ほどマンスリー手帳のページが
変わってからのことだった。





樹が死んだと知った日
あんなに呆然としたのに。

楓くんの前であんなに泣いたのに。

それからしばらくして
会社のトイレでひとり
声を殺して泣いたというのに。



あの日から変わらず私は生きているし

お腹が空いたり、眠くなったり、
笑ったり、あくびしたりしている。


友人とご飯を食べに行って
笑うようにもなった。

いつまでもいつまでも私は
24時間365日、彼のことばかり考えて
生きていくことはできない。




遠ざけていた携帯は
気付けばなんてことなく使うようになった。

もう大丈夫、だとおもう。思っていた。




それでも、


新着メッセージが2件あります


なんてことない気持ちで開いたLINE



楓くん : おひさしぶりです。突然すみません

楓くん : ひさしぶりに、会えませんか



ぎゅっと強く心臓を掴まれるみたいに
呼吸が止まるくらいには私、

まだ完全に忘れられたわけではないみたいだ。









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