Lie
健気なうそ(1/5)
べつになんてことはない。男を好きになった。それだけだ。
そう割り切れたらどれだけ楽なんだろうか、と考えるのももう何回目?1回ハマったら抜け出せない悪循環。わかってるのにぐるぐるぐるぐる回る頭ん中の中心は、
「スガ」
いつだってこの男。
藤 雅紀。
形のいい切れ長の瞳に通った鼻筋、薄い唇。
きれいにバランスよく整った顔はいつだって無表情でキツめの印象を持たせる。
でも笑った顔は天下一品。
目尻が下がって頬に線が入って、くしゃっとした顔になる。
お前の表情筋死んでてよかったってお前が笑う度にいつも思うよ、俺。
そんなんいつでもホイホイ見せてたら、全世界の女はもちろん、男だって惚れるでしょ。
現にその笑顔にやられた男がここにいるし。
「おーい、スガ。寝不足ですかー?お前昨日もヤッたの?」
「んー、そんなに俺の性事情気になる?」
「ぜーんぜん。知りたくもないなー」
ズクリ。心臓に1本の図太い針が刺さった。
はいはい知ってるよ、俺だって男友達の性事情なんて興味無いしどうでもいい。でも、お前は別。お前のことなら隅から隅まで知ってたい。し、お前にも知ってて欲しい。とか思う俺って気持ち悪い。
「あっそうですか」
「…んー、やっぱ気になる。教えて?昨日はどんな女とヤッたの?」
マサ、マサくん。それわかっててやってる?ド底辺まで下げられて、その後すんごい高さまで上げられた。それになに。小首かしげながら「教えて?」ってなに。いつそんなハイレベルなこと覚えたの?いつもそんな風に誘惑してるの?
ダメだ、無理かも。口、緩むかも。
「……昨日は誰ともヤッてない」
「へえ、て、なに口抑えてんの」
ん、バレた。うるさいな、こっちは口元隠すので忙しんだよ無自覚なお前のせいで。ってひと睨みしてみるけど相も変わらず目の前のイケメンは無表情。
「なに、めっちゃガン見するじゃん」
ガン見じゃねえよ。睨んでんだよ。
って言おうとしたけどやめといた。なんで?って聞かれたら口元抑えてる理由も言わなきゃいけなくなるじゃん。それは無理。俺はまだ終わるつもり、さらさらないし。
「イケメンマサくんに見とれてたー」
まあこれもあながち違っちゃいない。マサに見とれることなんて日常茶飯事だし。
「なに?また?いい加減拝観料とりますよ〜」
ほら、マサだってこうやって流してくれる。
だからやめらんないし、やめる気もない。このぬるくて居心地いい「トモダチ」っていうポジションを手放せない。
「お前は大仏さまかよ」
「雅紀教の信者第1号はお前でしょ?」
「それはうれしいね」
第2号も第3号もいらない。
ずっと俺ひとりだけでいいでしょ、とかそんなこと考えちゃう俺って、やっぱり歪んでる。
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