快楽に溺れ、過ちを犯す生命体【アナザーストーリー】
[厳かな卒業式のはずだったのに…](1/1)
念願の志望校に合格した。

あれ以来、母親の所には行ってない。
邪念を振り払うが如く、マンスリーマンションに引きこもり、連日夜中まで勉強した甲斐があった。

オレは絶対に合格しか許されないという状態にまで追い込む為にこの高校一本に絞って勉強した。

滑り止めの高校なんて必要ない、落ちたらまた母親との汚れた日々を送らなきゃならない…そんなのはもううんざりだ、中学を卒業して荷物をまとめてここから離れた奥多摩で3年間を過ごすのみ。


オレは最後に母親の所に行った後、念のためにおじさんに連絡を取り、母親がオレの住んでるマンスリーマンションの居場所を聞いてきても決して言わないようにして欲しいと頼んだ。

勿論おじさんにはあれ以来身体の関係は結んでいない、と言ったが、察するものがあったのだろう。

おじさんには、これから追い込みの時期だから、出来るだけ勉強に集中したいという理由を伝えた。

母親からオレの住んでる場所を何度か聞いてきても、一切教えなかったらしい。

おじさんが協力してくれたお陰でオレは志望校に合格出来た。

おじさんには随分と世話になった。
だから合格して真っ先に伝えた。

おじさんも喜んでくれて、オレは今まで世話になった事を感謝した。


4月からは高校生だ。しかも全寮制というオレには未知の生活が待っている。

団地やマンションの様な寮をイメージしたが、パンフレットには建物もそれほど古くはなく、快適に過ごしやすい環境だと書いてあった。

受験の日に校舎には入ったが、寮まで確認する事の余裕は無かった。

受験して合格発表の日まで間、オレはほとんど眠れなかった。

もし、落ちたらどうしよう?他の学校の二次募集に受けなきゃならないのか?
それともこのまま卒業して、寮の完備してある会社に中卒として働こうか、とにかく色々な事が頭の中を駆け巡り、とてもじゃないがグッスリと眠れる余裕すら無かった。

食欲も同様に失せ、その間だけでオレはゲッソリと痩せ細ってしまう程だった。

だが、合格という報せを受けると、緊張の糸が切れたかの様に、オレはベッドに倒れ込み、今まで睡眠不足だったせいもあってか、深い眠りについた。

当然、食欲も復活してくる。
オレは卒業までの間、食って寝て、そしてまた食って寝るという繰り返しで、あれだけゲッソリと痩せ細っていたのに、みるみるうちに少し太りぎみになってしまった。


それだけオレにとってはこの受験が今後の人生を左右する程の大きな出来事だったのだ。


そして卒業式当日、オレは3年間通ったこの中学に別れを告げる。

卒業生全員が体育館に集まり、壇上で卒業証書を受けとる。
別れを惜しんで泣いている生徒や先生も多くいた。

オレはこの中学の3年間、これといった思い出は無かった。
ただ思い浮かんでくるのは、家での母親との近親相姦という忌まわしい出来事だけだ。

でももうそんな事に悩まされるのも、この卒業と同時に解放される、心機一転で新たな生活をしよう。

そしてオレの名前が呼ばれ、壇上に上がり、卒業証書を受け取った。

その帰り際、来賓席にピンクの花びらと金の桜の枝の刺繍が入った派手な着物を着た女と目が合った。

母親だ!まさか卒業式に来るとは…
髪をアップに結い、真珠と金細工の大ぶりで派手なかんざしをさして、まるで銀座のホステスみたいな格好だ。

何故、卒業式に?
今更母親ヅラしてノコノコ来たのか!

しんみりとした卒業式の雰囲気だったが、オレの心の中は、最後の最後でこの卒業式という厳かな儀式を汚された様な気分で腸が煮えくり返った。

テメーは何しにここへ来た!
母親ぶってそんな所で座ってんじゃねぇぞ!

今すぐその場に乗り込んで、ぶん殴りたくなる程、無性に腹が立った。

その後の事はよく覚えてない。
式が終わり、オレは母親と顔も合わさずにマンスリーマンションに向かった。

電車の中で座りながら、卒業証書を手にオレは何とも言い様のない気分でいた。

怒りなのか、悲しみなのか、そんな感情が入り交じり、言葉ではいい表せない複雑な心境で卒業式の事を思い浮かべていた。

あの顔させ見なければ、神聖なる気持ちで卒業式を無事に終えたはず。
だがあのホステスの様な和服を着て、シレっとした顔で来賓席に座っている母親と目が合った瞬間、一気に神聖なる卒業式が一転して音を立てて崩れていくような感じだった。


まぁ、いい。とにかくこれであの顔を見るのは最後だ、来月からは遠く離れた場所で過ごす事になる、会う事は無いだろう、そう自分に言い聞かせていた。

そんな事ばかりを考えていたせいか、降りる駅を乗り過ごしてしまい、慌てて次の駅で降り、再び戻るようにして駅に着いた。

電車の中でろくでもない事を考えすぎたのか、降りる駅に気がつかずにいてしまった…



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