ノラネコ―R18―

タトゥー(1/12)





ザワザワ、ザワザワ。



翌日、鬱陶しい雨も上がり麻希とネコは出掛けていた。



喧騒の中、二人は並んで歩く。



すれ違う度、女が振り向いてきゃあきゃあ騒いでるのが解る。



恐らく、ネコを見て“イケメン”と騒いでいるのだろう。



しかし、二人は構うことなく歩き続ける。



当てのない散歩は、ネコにとっては真新しいものばかりなのか、それとも、物珍しいのかキョロキョロと落ち着きがない。




「どうした。そんなに珍しいか?この街並みが」




麻希の視線の先には、見慣れた街。



ファッションショップ、アクセサリー工房、ショップ、クラブ、バー、煙草屋、輸入雑貨店、移動型屋台、閉じたシャッター、そこに書かれているイタズラ描き。所謂、“グラフィティアート”である。



この街に、“グラフィティアートは犯罪”という概念はない。



街ひとつが全て“芸術”として成り立っている。



煙草屋の親父は、推定70代だが、グラフィティアートされた自身の店のシャッターを、愛しそうに見ていた事を思い出した。



怒らないのか、と訊ねたら、「これも若者の、芸術の為の腕試しと思えばなんて事はないさ」と穏やかに笑っていた。




シャッターに描かれていたのは、煙草を持った天使の絵。



天使と煙草がミスマッチだが、それが面白かった。



描いた人間も“ここは煙草屋”だと、暗に示している。それが、シャッターに絵を描いた描き手の贖罪なのかもしれない。




「ええ、まあ……。俺は麻希さんの家の中しか見た事なかったので……」




ネコの一言で、しまったと麻希は後悔した。



ネコと暮らし初めて1ヶ月は経っている。



熱も数日で下がったし、早くテツに連絡して服を借りるなり貰うなりして、外に出してやれば良かったと。



仕事に感けて、ネコを放置していたせいで、きっと退屈していただろう。



しかし、そこまで考えたところで、麻希の中の、もう一人の自分が囁いた。




『拾ってやっただけ有り難いだろう。そこまで考えてやる義理があるか?』




それに対して、もう一人の麻希が反論する。




『拾ったとはいえ、家に閉じ込めておくなんて、監禁と同じじゃんか。退屈かはともかく、少しくらい仕事を中断して、案内しても良かったんじゃないか』




悶々と考えていると、突然目の前に琥珀色の瞳と、整った顔立ちが目に入る。



ネコが、心配そうに麻希の顔を覗き込んでいた。




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