傾国の美丈夫は馴れ合わない
[許せるものか](1/7)

「しかもだ、そいつらは回復魔法使いの人間と面識があったらしい!そいつらを餌に誘き寄せるんだってさ。これで危ない奴らも居なくなって、この国も一気に強化される、一石二鳥だ!処刑の瞬間はそう観られるもんじゃねえからな、楽しみだぜ!お前さんも観るだろう?」


その問いに、何と返したのかは分からない。


バクバクと煩く鳴る心臓を押さえて立ち止まったマサカズはふと顔を上げた。いつの間にか人気のない裏路地まで来てしまったようだ。地面に落ちているゴミや壁の落書きをぼんやりと見つめる。

頭の中で先程男が言った言葉が反芻される。

反乱軍の指揮者を処刑だと?

彼らが捕まったというのか。
そして、殺されるのか。

その考えに至った瞬間、目の前が真っ赤に染まった。凶暴な感情が押し寄せ、握りしめた拳が震える。腹の底から湧き上がる怒りと悲しみ、そして胸を締め付ける罪悪感に、のたうち回りたい衝動を必死に堪えた。ここまでの激しい感情を覚えた事は今までにあっただろうか。

(馬鹿じゃないですか、ああ、どうして)

自分なんかを追って来たのだろう。


彼らがいつ学園を出たのかは知らない。
だがあのままあそこにいれば、このように捕えられ罪人のように殺されることなどなかったのだ。
これは罰なのか。人と関わらないと決めておいて、中途半端に介入した自分への罰か。だとしても、これはあんまりではないか。

彼らがどういった理由で奴隷解放を行ったかは分からない。その間に人を殺していたのかもしれない、犯罪に手を染めていたかもしれない。

彼らがどんなに人に疎まれようと、憎まれようと、自分の中では大切な人達なのだ。心から幸福を願った人間達だ。

それを処刑だと?

『許すものか。』




マサカズは踵を返した。
来た道を戻り、大通りに出る直前で屯する数人の男達の前で足を止める。

「私と遊んでくれませんか?」

突然現れた男に驚いた男達は、その顔を見てまたも驚いた。とてつもない美貌を持った男がそこにいた。涼しい目元にすっきりとした顔立ち、建物の陰で暗いというのに、思わず手を伸ばしてしまいたくなるほどの輝かしい白い肌にごくりと喉が鳴る。

「どうした兄ちゃん?金がねえのか?」

仲間の一人が男を舐め回すように見た。
その声はあからさまな欲に濡れていた。にんまりと吊り上げられた口は今にも舌舐めずりをせんばかりだ。

男の言う「遊ぶ」がただ普通に遊戯をする訳では無いことはこの場にいる全員が分かっていた。異論を申し立てる奴などいない。この場の誰もが飛び込んできたこの不思議な男に心を奪われた。


路地の奥へと進む男達の後ろに続く。
隣を歩く男が厭らしい手つきで腰を撫で回すのを、鳥肌を立たせながらも大人しく耐えていた。

なりふり構ってなどいられない。

明後日までにできるだけ力を集めなければならない。その為なら、彼らの為なら、どんなことでも




入り組んだ路地の先、1軒の古びた小屋の中へと入ったマサカズは、伸ばされる手を視界に捉えながら、ゆっくりと息を吐いた。


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