傾国の美丈夫は馴れ合わない
[ご存知ですか?](1/17)
グライアが試合に参加すると言う事で、一時学園から立ち去るという案は消えてしまった。唸る面々にそういえばとラウがマサカズに振り返った。
「マサカズ、お前あの野郎に気に入ったとか言われてなかったか?魂がなんとかって…」
「そんな事もありましたねぇ。ただの気の迷いでしょう。そこまで気にすることではありません。」
流石にあの緊迫した状況の中、一人動いたのは目立った事だろう。それはマサカズも分かっている。しかし、それでも見ているだけという選択肢はなかった。最悪あの教室が壊れるかもしれなかったのだ。イヴァンの反応は予想外だったが、その興味もすぐに失われるだろうと思っていたマサカズは、再び最善案を考え始めたが、それをケディウスが止めた。
「んな訳ねぇだろ。俺達から見てお前は多少無茶しても手に入れたいと思う程の人間だ。絶対に一人で出歩くな。」
これには驚いたマサカズだったが、直ぐに疑いの眼差しをケディウスに向ける。
「こんな、平凡な私を?」
そんなわけがないと、言いはしないがその顔は雄弁に語っていた。
平凡?と首を傾げ呟いたロウの言葉は、生憎マサカズの耳には届かずに消えた。
マサカズは自分の事を普通の男だと思っていた。ケディウス達のような端整な顔立ちではないし、膨大な魔力も有していない、どこにでも居るありふれた人間の一人だと思っている。
しかしそれは本人がそう思っているだけの話で。
グライアとウィラードはグッと口に力を込めた。そうしなければ「お前のような平凡がいるか!」と声に出していただろう。これが謙遜なら良かったが、マサカズ本人は本気で言っているのだからタチが悪い。
ケディウスも同じ気持ちなのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をしたあと、マサカズを見てため息を吐いた。
それにむっと口を尖らせたマサカズは非難の声を上げる。
「……人の顔を見て溜め息とは、些か失礼ですよ。」
「仕方ねぇだろ。天使を捕まえよう目論む連中のいる中、当の本人にその自覚がなしときた。事の重大さわかってるか?」
至って真剣な口調のケディウスである。
しかし返事をするマサカズも真剣な表情で言ってのけた。
「天使ではありませんと何度も…、いえ、それより信じられません。私など捕まえてどうしようというのです?人間をペットにしたいなら他にもいるでしょうに。」
「人間、ではなくお前に意味がある。俺達獣人族はある程度魂の清さがわかるんだ。匂いというか、雰囲気というか、とにかくお前は別格だ。そういうのを好む奴らに会ってみろ、目の色を変えて貪り食われるだろうよ。」
「人間食う奴いんの!?」
これにゾッとしたラウは、震えた声を上げ鳥肌の立った腕を擦った。
「少数だがな。」
「少数でも嫌ですねぇ。」
あくまで他人事のようなマサカズである。
それもそうだ。突然魂が綺麗などと言われても、いまいちピンと来ない。これがケディウスじゃなければ完全に聞き流していた。
「正直魂というのは分かりませんが、貴方の忠告通り、周りを気にして歩くようにします。」
素直に聞き入れたマサカズだったが、ケディウスはその言葉に十分満足はしなかった。割合でいえば三割だ。
「……いっそ監禁でもしとくか。」
薄暗いケディウスの呟きを、幸運にも丁度夕食の支度のため立ち上がったマサカズには聞こえていなかった。
しかし不運にもそれを耳にした憐れなウィラードは、一人ぞわりと背筋を凍らせた。
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