傾国の美丈夫は馴れ合わない
[覚悟はありますか](1/20)
ウィラードの忠告を受けてから、少々気を張っていたマサカズだったが、2、3日が経ち、一週間が過ぎても何も大きな問題が起こらないことに段々と気を緩めた。
そうしてやって来るのが夏の長期休みだ。
1ヶ月ほどのこの夏休みに、殆どの生徒は一時帰宅する。
マサカズは目の前で料理を頬張るグライア達に声を掛けた。
「貴方がたは帰省するのですか?」
ケディウスが帰省しないことは何となく分かる。
手を止めて口のものを飲み込んだロウが答えた。
「俺は帰らない…ってか帰る場所がないんやけどな。」
ヒヒヒッと笑うロウに、マサカズはとてつもなく申し訳ない気持ちになった。
迂闊な質問だったと反省する。
「俺は帰らん。あんまり会いたい奴等じゃないからな。」
「…失礼しました。」
忌々しいと歪められた顔に、マサカズはまたも軽々しく問うた己を心の中で叱責した。
「気にせんでええよ、ただ仲悪いだけやし。マサカズもここにおるとして、ケディウスは?」
話をふられたケディウスが、ちらりと視線だけを向けて頷いた。
「ここにいる、ですって。」
口を開くのが億劫だったのだろうケディウスに代わり、マサカズは苦笑しつつ答えた。
「何で分かったん今ので…」
「って事はさ、皆で1ヶ月遊べるな!何する?大乱闘する?それとも生き残りを掛けたバトルロイヤルでもする?」
生き生きと目を輝かせるロウに、グライアが呆れたように首を振った。
「嫌や。何で休暇中にそんな疲れる事せなあかんねん。ってか学生の夏休みって普通はお泊まり会とか、こっそり学園抜け出そうぜ!とかちゃうん?」
「あら、グーちゃん自分の事普通やと思っとん?勘違いも甚だしいわー。」
「喧嘩売っとんかワレ。」
「落ち着いてください御二方。」
本当に乱闘が発生しそうになる場を鎮めて、マサカズはロウに向き直った。
「少し用事がありまして数日間外に出ようと思いますので、遊びは帰ってきた時に是非お付き合い致します。」
「え、どこに行くん!?」
グライアから逃げようと立ち上がったロウが、驚いた様にマサカズを見た。
ケディウスやグライアも同様で、手を止めてそちらを向く。
「出稼ぎに行こうかと。ここまで時間があれば遠方まで足を伸ばせます。」
それに、マサカズはもう一つしたい事があった。
しかしそれは言葉には出さず、胸の内に留めておく。
成功するかどうかも分からない、一種の賭けだったからだ。
「栄養はどう摂る?」
ケディウスの声に視線を向ける。
「疲れてきたら頃合いを見て帰ろうかと。間に合わなければ酒場にでも篭って地道に摂取していきます。」
その答えに一瞬ケディウスの眉間の皺が増えたような気がしたが、確認する前にすぐ真横でロウが叫んだ。
「あかん!あかんで。そんなよう分からん不特定多数から栄養分けてもらうなんて…マー君のエッチ!」
「エッ…!?何です急に…」
「浮気はあかんで!俺は許さん!」
「浮気って、貴方ねぇ…」
ギザギザの歯を剥き出しにして怒るロウに、マサカズは呆れたように見返した。
「お前が遠出しつつ、栄養を摂れる方法がある。」
ケディウスが口を開いた。
「お前について行きゃあいい。」
ニヤリと笑うケディウスに、唖然と口を開く。
「お、ええやんそれ。旅行やな。」
「レクターええ考えやん!」
乗り気なグライアとロウに、マサカズはどういう事だとケディウスに詰め寄った。
「いえ結構です。一人で大丈夫です。折角のお休みでしょう?言葉通り休んでいて下さい。」
「断る。」
毅然と突っ撥ねるケディウスとの攻防は暫く続いたが、多勢に無勢で三人に押し切られる形で幕を閉じた。
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