漆奏
[消失哀歌](1/3)
「やめて!!行かないで!葉月!!」

「おねぇ…ち…ん」

夕焼けが照らす公園。

今にも消え掛かる幼い声。

そして、その声を掻き消す様に私の声が虚しく空へと消える。

そしてそんな私を、見下ろしながら男は言った。

「お前は今、何を思う?」

私の叫ぶ声とは正反対に、低く、しかしどこか冷静でいて、静かに男は問いかける。

「かえ…して…」

「葉月を!!かえして!!!」

こんな状況の中では、男の問いなど私の耳には届くはずなど無かった。

ただ、目の前で起きた非現実を受け止める事が出来ず、そして同時に理解出来ずに感情のままに叫ぶだけ。

そんな、私をお構い無しと言った様子で、男は先程となんら変わらない声で続けた。

「人は、何かを失った時、何かを得る事が出来る。」

「失ったモノの価値は人それぞれだが、本当に取り戻したいのなら…」

「私を…」

まだ肌寒い風が2人をすり抜ける。

「殺せ。」

男がその言葉を放った瞬間、今吹いていた風が止んだ気がした。






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