◆偽善者 (1/1)
西島と咲…二人に共通するもの。
咲 「西島くん,とにかく学校から出よ。ちゃんと話が聞きたいし。」
康太「あぁ…。」
私は『見られてる』というワードを気にして,西島くんを連れて学校から出る事にした。
きっとあのクラスにいるから話せないのかもしれない。
『天の目』とか言うものが西島くんの口を塞ぐ様にして。
学校を出た私たちは帰り道の近くに公園があるのを見つけて,そのベンチに二人でゆっくりと座った。
康太「ごめん。変なトコ見せちゃって…。」
西島くんが目を擦りながら言ったんだ。
咲 「いいよ。全然…。」
私も何故か彼の苦しみがわかる気がする。
きっと大切な友達を救いたいんだよね。
咲 「なんか変だよね…。2ーAってイジメなんてないけど,でもそれがイジメみたいに見えるし。」
西島くんの心を開きやすい様に直接的な事は聞かない私。多分,言いにくい事だと思うし…それにあのクラスにもし何か縛られる様なものがあるなら言えないはずだから。
康太「深くは言えないけど…皆,怖がってる。だから,ルールを守るんだ。」
咲 「怖がってるって…」
康太「篠山にはこのクラスがどう映ってる?皆は正しいなんて言ってるけど,やっぱり違う気がするんだ。実際に自分の友達があんな風になってから気づくなんて遅すぎだよな。」
咲 「私もおかしいって思うよ。最初はわからなかったけど…でも,学校に来る度に感じてる。石上くんがあんな事になって…。」
康太「孝だけじゃない。篠山は途中からあのクラスに入ってきて知らないと思うけど,2ーAというクラスがスタートしてから孝を含めてもう10人目なんだ。性格まで変わってしまったクラスメートは…」
10人目!?
咲 「う,嘘…。ホントに?」
西島くんの言葉に動揺していく私。
康太「あぁ,嘘じゃない。全てクラスのルールを守れなかった人だよ。最初はその人たちも一人一人個性的だったんだ。でも,今はみんな静かな人間になってしまったけどね。」
私が学校に転入する前から,もう被害者が出ていたって事?
そんな…
康太「最初はイジメをする奴とかが対象だったのに…いつの間にか変わっててさ。孝の時なんて,たった体育祭の反省をちゃんと言わなかっただけでこのザマだよ。もうめちゃくちゃだ。」
咲 「ねぇ,西島くん。村上さんから聞いたんだけど,このクラスに出来たシステムって…白波がイジメをしていたからなの?」
つい疑問をぶつけてしまう私。
でも知りたい気持ちがそうさせる。
康太「白波か…。俺にも真相はわからない。皆はそう言ってるけど,実際は知らないと思う。皆は自分を守ろうと必死だから。」
真相はわからない。
咲 「そう…。でもさ,西島くんみたいにおかしいって思ってる人だって今までいたはずだよね。なのになんで間違ってるって言う人が誰もいないの?なんでルールをそんなに必死で守らないといけないの?」
康太「言える訳ないだろ!!!クラスの列からはみ出した奴は皆,孤独になるんだ!!!誰だって孤独にはなりたくないだろ!!!篠山だってわかるはず!!!」
感情を高ぶらせながら答える西島くん。
孤独…
そうだよね。
皆,孤独になりたくないから必死に合わせて生きてる。
一人は嫌だから。
でも!!!
咲 「私は違う!!!そうやって逃げて友達を見捨てるなんて出来ない!!!西島くんだって本当は石上くんを助けたいって思ってるんでしょ?だから私に会いにきたんだよ。石上くんに話しかけた時だって,涙目になってたの知ってるんだよ。それは西島くんが石上くんの事を守りたかったから!!!」
康太「ふざけんなよ!!!じゃあどうしろって言うんだよ!!!俺が何かすれば評価されて対象になる!!!次は俺の番になるかもしれないんだ!!!綺麗事なんて通じないんだよ!!!」
結局…
皆,自分が可愛いんだよね。
わかってる。
それが当たり前だって事も…
咲 「何も変わらない。クラスの心を一つに…なんて笑える。結局さ,酷いイジメがあるクラスと変わらないんだよね。マジで腐ってるよ…。」
イジメのない理想のクラス。
そんなもの存在する訳ない。
見えない所で苦しんでいる人は沢山いるんだ。
それを見ないフリして自分を守る。
私もあの学校から転校した時点で,西島くんと何も変わらないのかもしれない。
【ただ,逃げてるだけ。】
だから利香との関係も壊れたまま…
やっぱり私は偽善者だよ。
咲 「でも私は信じてるよ。間違った事は正すべきだって。」
康太「………。」
夕陽が落ちて,電灯に明かりがつく頃…
西島くんが立ち上がって私に言った。
康太「本当は俺もそう思う。でも…勇気がないだけなのかもしれない。」
咲 「西島くん…。」
康太「また明日の夕方,ここで会えるかな。家でよく考えて…もし俺に何か出来る事があったら,篠山に伝えたいから。クラスの事も…。今の俺にはまだ言う勇気もないからさ(笑)」
西島くんも辛いんだよね。
きっと…
咲 「うん。私は西島くんの味方だよ。」
康太「ありがとう。お互い大変だけど,なんとか考えてみるよ。じゃあ…また明日な。」
彼の走っていく後ろ姿を見て,私は西島くんが変わる事を願っていた。
あのクラスの闇の中で私に打ち明けてくれた。
その救いたい気持ちは感じてる。
その勇気だって…
だから,私も自分を救う様に同じ気持ちだったんだ。
そして…
私もあのクラスの謎に立ち向かうべく,自分の家へと帰っていった。
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