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六章 もう一人の神様 (1/21)
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木の葉が風に吹かれてはらはらと舞い落ちる。
境内の木々は常緑樹が多くて、木々の数の割に落ち葉は少ないのだが、それでも今の時期は掃除の手間が増える。
竹箒を手に見上げる。
木々に宿る神はあまり自分にも人にも関わろうとしない。
見守るだけ。
それが木の性質なのか、昔からこいつらは変わらない。
決して相性がいいとは言えない相手だが、今まで悪意を感じたことはないのに。
掃いても掃いても次々舞い落ちてくる落ち葉に、どこか自分が責められている気分にさせられて、ため息を吐く。
参拝者も来ないし、なんとなく清と一緒にいるのも気詰まりで、掃除をしに来たものの気が重い。
湊と顔を合わせるのが怖い。
どんな顔をしたらいいのか・・・
ザッザッと適当に掃いていると、木の葉が集まるどころか散らばってしまう。
・・・何やっているんだ、私は。
また、ため息を吐いて、今度は丁寧に掃き集める。
「マナ?」
不意に後ろから声をかけられて、驚いて、また集めた木の葉を散らかしてしまう。
「あっ」
「あ〜あ、何やってんだよ」
驚かした張本人のくせに、湊は笑いながら、貸してみ? と手を差し出すから、ちょっとムッとして箒を渡す。
湊は慣れた手つきでパッパッと木の葉を集めて、片づけてしまう。
その間、不思議と舞い落ちる落ち葉の数は減っていて。
少し腹立たしくて木々を見上げて睨みつけた。
「マナ?」
そんな自分を不思議そうに見つめてくる湊にハッとして、何でもないと言い繕う。
湊は自分でも気づいていないようだが、神たちにかなり甘やかされている。
それが、今まではそれほど気にならなかったのに・・・
少し苛ついて湊から顔を背ける。
「・・・お前は甘やかされすぎだ」
「は?」
本当に分かっていない顔で、ぽかんとこちらを見返してくる顔が少し間抜けで。
思わず吹き出して、クスクス笑ってしまう。
何でもないと言いながら、ふと普通に話せていることに気づいてホッとする。
・・・そうだ、どうせこうして湊と一緒にいるのは10年間だけ。
私が気持ちを隠してさえいればこうして、普通に話も出来るし、そんなに考え込む必要はなかったか・・・
このまま自分が応えなければ、湊だって・・・そのうち、別の相手を見つけるだろう。
そうすれば、自分もきっとこの気持ちを忘れられる。
・・・なのに。
ぐっと胸が沈むような感覚。
「あ」
不意に声を上げた湊がこちらに手を伸ばしてくる。
髪に触れる感触。
心臓が馬鹿みたいに跳ねて、驚いて、手を振り払ってしまう。
あ・・・
「・・・ごめん。落ち葉がひっかかってたから・・・」
湊の手には朱い紅葉が一枚。
「うん・・・こっちこそ悪かった・・・驚いて」
目を伏せて、言い訳めいた言葉を吐く。
「いや・・・今もだけど、さっきの帰りも・・・俺、ちょっと調子に乗りすぎたって、反省してたんだ」
苦笑を浮かべて、少し距離をとる。
「俺、マナを困らせたくないから・・・これからは気をつけるよ」
手にしたままだった紅葉をぎゅっと握りしめて。
「俺、先に社に戻ってるな」
背を向ける湊。
とっさに手を伸ばして引き留めそうになって。
途中で手を止めた。
手を振り払ったときの湊の顔がちらついて。
驚いた表情。
そこに確かに浮かんでいた傷ついた色。
ぎゅっと胸が苦しくなった。
・・・あんな顔をさせたいわけじゃないのに。
沸き上がる感情に途方に暮れる。
泣きたいような気分になって、ただ湊の背中を見ていられなくなって目を伏せた。
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