インスタ映えしない恋
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「…」
柳瀬 悠はもうコーヒー飲み終わってるし。
あーあ、もうすぐ、帰ろうぜとか言い出すんだろうな。こんなブス置いて、早く出ようぜ、とか。
そんなことを考えながら急いで口にホットドッグを詰め込んでいたら、詰め込みすぎてむせた。
「ゴホッ、コホッ」
口元を押さえて咳をする。うわ、苦しい。飲み物。
顔を下げて咳をしてるおかげで、手先の感覚だけでテーブルの上の水を探した。ない。どこ。
「ほら」
コツン、と指先に何か当たった。冷たい。あ、水だ。
咳がちょっと収まって、口の中の物が少なくなって、顔を上げると、柳瀬が私の水を私の手に押し付けていた。
「早く飲め。」
言われるがままに、グラスを持って、一気に飲む。
「おま、そんな一気に飲んだら」
ゴホッ ゴホッ
今度は水が変なところに入ってむせた。
言わんこっちゃない、と呆れた声を上げる柳瀬。いや、あんたが早く飲めって。
「ほら手拭き」
私に自分の手拭きを手渡す柳瀬。
なんか変な感じだ。
こいつこんなことできるやつなの。
「ありがとう」
素直にお礼を言うと、めんどくせーなお前、と悪態を垂れる柳瀬 悠。
優しくしたいのか、したくないのかどっちだよ、とまた余計なことを言いそうになったけど頑張って堪える。
一応、そういう分別はできる人のつもり。
「……腹減った」
口元を拭った私をじっと見て、柳瀬は大きくため息をついてそんなことを言った。
「貰うぞ」
わたしの返事を待たずして、柳瀬はホットドッグのもう一切れを手に取った。
いや、まって、さっきおにぎり2個食べたって言ってたよね?腹減ってるはずないじゃん。
1切れでもかなりの量だよそれ。
「まっ、」
柳瀬がパクリとそれを口に入れた瞬間、待って、と言いかけてやめた。柳瀬がすっごい目で私を睨んだからだ。
「うるせーなわかってるよ、半額払えばいいんだろ」
金の亡者が。と吐き捨てる柳瀬。いや、違うって、別に払って欲しいとか思わないし、むしろ食べてくれてありがとうぐらいだし。てか絶対無理してるじゃん。
私が無理してるの気づいて、
……なんだこいつ。
分かりにくい優しさが、腹立つわ。
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