割れた花瓶
[苧環](1/5)
「…おはよう。」
「あ、おはよう裕生(ゆい)。」
俺の挨拶に人一倍早く反応する彼の名前は香月圭(こうづきけい)。俺の実兄である。
我が家には優れた人間以外は要らないと、いつの日だったか母と父が呟いていた。
俺より劣る容姿、頭脳、こんなのが長兄だなんてありえない。
とろくて、危なっかしくて、優しくて、警戒心の欠片もないこんな人間は跡取りになんてなれない。
だから俺は兄が嫌いだ。
「裕生、さっさと支度なさい。私はもう出るから。」
「…わかってるよ母さん。」
兄の代わりに俺が全て背負わなきゃいけない。
母の視界に兄はいない。優れた俺だけが映っている。
「今日は卵焼きにネギ入れてみたんだ!美味しいと思うぞ。」
「あっそ。具なんてなんでもいいから。」
「……ごめん。」
弁当の具材なんてなんだっていい、どうせ食わないから。
それに俺はこんなくだらない話をしたいわけじゃない。話もしたくない。
……ああ、ただ俺がこの兄と話すことがあるとするならばそれは、『なぜそんなに使えないのにこの家にいるのか?』なんて、ただそれだけ。
兄のせいで俺の人生めちゃくちゃなんだ。
本当ならもっと周りの馬鹿みたいに馬鹿らしい生き方でもできたかもしれないのに。
…こんなやついらない。
ただの足手まとい。
消えてしまえばいい、愚かな兄。
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