悪魔のようだった父と最低人間だった僕
[説明](1/1)
気象庁が春一番を発表した翌々日の3月10日。その日は春とは正反対の冷たい雨が降っていた。
「もう一時間近く心臓マッサージとアンビューバッグを挿して人工呼吸を続けていますが、自発呼吸はできませんし、脈も戻りません」
青白い照明に照らされたベッドに横たわった父の前で、ただ呆然と立ち尽くす僕と母の前で医師は言った。
「もう結構です止めて下さい」
なにかを言おうとした母を右手で制し、僕は必死で声を絞り出した。
若い医師は手を止めた。途端に心電図の波形が平坦になる。聴診器を胸に当てたあと、瞳孔をライトで照らして確認する。
「ご臨終です」
感情のない声が耳に刺さる。
それは残酷すぎるほど無駄のない流れだった。
僕と母親にとって唯一の救いは、長い苦しみから開放されて幸せそうな父の表情だった。
そしてこの出来事は僕にとって、長い間憎み続けてきた父を許した瞬間でもあった。
これは悪魔のような父の息子である「最低人間」だった僕が「再生」するまでのお話です。
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