殺したいほど愛してる

第一話 ある日の夜(1/2)




月明かりが淡く照らす京の夜。薄暗く静かな夜はどうにも不気味さが強く、建物の影から化け物が顔を覗かせているようなそんな恐怖が沸き上がってくる。

とくに京の夜とくれば特別だ。

京は御上のおはす栄えた夢の多い町。だが、何かと血生臭い町でもある。京に現れる化け物ならば、それはまた大層な化け物なのだろう。


もっともーー


「ぁ、ああ…、ああああ…。」


目の前の男にとっては妾が化け物のようだがな。


パンパンと砂を払い、倒れていた自分の体にゆっくりと力を入れて起き上がる。まぁ、どんなに砂や埃を払おうが、もうこの着物を着ることはないのだが。

妾の着物は切り裂かれ、血で真っ赤に染まっていた。無論、妾の血だ。


「な、なな何でだ、よぉ…。
お、お前、いいま、…死んでたじゃんかよぉ…。」


前の男は尻餅をついた状態で、股間の部分を濡らしていた。なんともまぁ、無様なことだ。思わず「クク…」と笑いをこぼした。


「さっきまでの威勢はどうしたのだ?
酒臭い匂いをばらまいて、妾に男を教えてやるだのなんだの言って絡んできたではないか。」


さっきまではお酒で真っ赤だった男の顔が、今では真っ青になっている。ふむ、酔いは覚めたようだな。

偶然出くわした名前も知らぬこの男は、幼女を好むようで、妾が散歩中に酒の勢いも相まってか妾に襲いかかってきた。妾も今宵は酒を嗜んでいた故、相手をしてやらんでもなかったが、男はどうにもただの幼女では満足せんらしい。

動かない、冷たい体の幼女が良かったらしい。

さすが京。なかなかの強者がおる。


「すまぬなぁ、長くは転がっていられんで。」


ニッコリ笑っい、妾の玩具ーー三節棍を取りだしながら言えば、男はさらに体をガクガクと震わせた。三節棍とは、三本の金属の細い棍棒を、鎖で繋げたものだ。命までは取りはせんが、妾の着物を台無しにした責任は取ってもらわなければならんからなぁ。


にじりよって行くと、男は一言、恐怖に震えながら呟いた。


「ば、化け物ーー」


その言葉を言った瞬間、男の首は永遠に胴体からおさらばした。

ドサッと倒れた男の体の後ろからは、人の大きさほどもある太刀を持った、齢15の少年が現れた。

目はギラギラと血走り、怒りが体中からあふれでている。

ふむ、つまらん。もう終わりか。


「姫を侮辱するやつは許さねぇ。」

「落ち着け、八尋。」


宿にいろと言ったはずだが…。まぁ、素直に聞き届けるとも思っていなかったがな。


「八尋、公弘は?」

「盗み見してたやつを見に行った。」


八尋は呼吸を整え、太刀を背中に背負いながら言った。

視線を感じてはいたが、公弘は仕事が早くて助かる。


「八尋、公弘に殺すなと言ってこい。
そやつはおそらくーー。」


八尋はわかったと頷くと、軽快な足取りで走り去っていった。


ひどく退屈でつまらない人生。だが、なにか面白いことが起こりそうな予感がする。





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