やがて直人も戻ってきて、教室にはほとんどの生徒が集まっている。教室の壁に取り付けられた時計を見ると、針は午前八時近くを指していた。
ホームルームまであと少し時間がある。
「あ。僕、ちょっと顔洗いにトイレに行ってきてもいいかな?何かまだ眠気が取れないからさ」
「おー、行って来い」
「そろそろホームルーム始まるから、遅れるんじゃねえぞー」
僕は昇と友樹に用件を伝え、自分の席に一番近い教室の後ろの扉から廊下へと出た。
一年二組のクラスからトイレまでの距離は、西に三クラス分進んだ先にある。
僕はホームルームに遅れないようにと若干足を急がせて、西階段の横にある男子トイレへと向かった。
「うわぁ……」
トイレの前の廊下にたどり着いた時、僕の目に真っ先に飛び込んできたのは、廊下にぶちまかれたゴミの山。床の至るところに可燃ごみや空き缶などが転がっていた。ゴミ箱はちゃんと壁際にいくつか配置されているのだが、まるでその存在などお構いなしに捨てられていた。
いくら掃除前の廊下といえども、これは酷い。
「全く……誰だか知らないけど、ゴミくらいちゃんとゴミ箱に捨ててよ……」
そうぼやきながら、僕は取りあえず足元に転がっていた空き缶を両手で持てる限り広い始めた。見て見ぬ振りをすることは容易だが、それは僕の良心が許さなかった。
両手にいくつかの空き缶を抱えながら、僕はもう一度周囲を見渡した。
すると、もう拾い終わったと思っていたのだが、ゴミ箱の裏にまるで隠れるかのように空き缶が一つ転がっているのを発見した。
幸い、まだ持てるスペースがあったので、僕はそれも拾おうとゴミ箱の裏に転がっていた空き缶へと手を伸ばした。
「うわあっ!!」
ゴミ箱の裏にいた『それ』に、僕は驚きのあまり、手にしていた空き缶を全て床に落としてしまった。
……何で?何でこんなところに『それ』が?
突然の出来事に、僕は脳の処理が追いつかなかった。
ゴミ箱と壁との間に出来た僅かな隙間。
ゴミ箱の裏に、『人』がいた。