私は彼の所有物
[Special Thanks #2](1/3)







……ちょっと冗談でしょ?」


夏、燦々と照りつく日差しを浴びて、私は冷や汗を流した。
藤井ケイのインスタグラムのストーリーを開くと見えた、私の上半身裸の写真。
細いウェストに細い腕を絡め、カメラを睨んでいる。


《東京にいる遠藤菜緒を探し出せ》


という恐ろしい文字も書き込まれていた。

ついに人権まで無くなってしまったか……


落胆しながらストーリーを進めると、藤井ケイが定めたルールが並んでいた。

遠藤菜緒を見つけ、それをタグ付きでストーリーに載せること。
時間は今から5時間。


たったそれだけの乱暴なルールに少しだけ苛ついてスマートフォンを切った私。
ケイさんは海外の仕事がある、と言い今フランスだ。
ここ最近、藤井ケイの仕事ぶりは心配になる程。
有名雑誌からオファーを受けたり、また有名雑誌からインタビューを受けたりと飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
……私を置いて仕事に行ったのに私をこんな見世物にするとは、流石だと感心してしまう。

今日の私はスリムなジーンズに白いTシャツと、普通の格好。
人混みに紛れ込んでしまえばバレないだろう。
……それにそんなに一般人にバレる程顔を出していない。



「みっけたー! !」


そんな声が聞こえ、ふと顔をあげる。
そこには私が見えているらしい高校生の女の子たちが何人かいた。
藤井ケイの許可が出れば、私は公共の物になるらしく、スマートフォンを無断で向けられる。

開始1分。
私は、SNSと藤井ケイに驚愕した。

ひとりが私を見つけてしまえば後は簡単。
私は動物園のパンダみたいに数多くのスマートフォンを通して見つめられる。

私は平静を装いゆっくりと歩き出す。
藤井ケイがなにかをし出しているということは、私はなにかを彼に求められている、ということ。


私の周りには、大勢の人が集まり、みんな私を盗撮している。
出来るだけ、自然にヒールを鳴らして歩く。


そんな時、スマートフォンが鳴った。
画面を見て電話に出る。


……今回はあまりに正気じゃないですけど、どういうつもりですか?」

〈すげーな、菜緒の怒った顔全部配信されてる〉


感心したように呟かれるその言葉に呆れて、長く溜め息を吐く。
日本とフランスを繋ぐのがこんな形なんて、嫌だ。


〈その顔
その顔のまま、絶対に他人のスマートフォンは見るな
歩き続けて
適当な時間に今から言うホテルに入って
……衣装があるから〉


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