酔ったあんたが見たい
[素面](1/14)


ーバレンタインー



今日はバレンタインデーだ。通年の俺なら全くもって縁の無い行事であったが、今年は違う。

俺には嵩原さんと言う最高にカッコイイ恋人が出来たからだ。


仕事の後に嵩原さんと会うことになっている。まあ、それもこれも俺が絶対この日は開けてくれとお願いしたからなんだけど。


今日の為にデパートへ赴き、嵩原さんが食べそうなチョコをリサーチしてきた。その場では買わずにパソコンでめぼしい店のチョコを取り寄せ、ちょっとした袋に詰めて準備万端だ。


ウイスキー、ブランデー、日本酒と様々な種類の酒の入ったビターなチョコの詰め合わせ。酒に強い嵩原さんにはぴったりだと思った。


嵩原さんは気に入ってくれるだろうか。


嵩原さんが喜ぶ顔を思い浮かべながら、俺は嵩原さん宅へ車を走らせた。





少し大きな鞄に嵩原さんへのチョコを忍ばせて、アパートの階段を上がる。

カチリ、と呼び鈴を押すと中で軽快な音が流れる。とっとっと、と足音が大きくなり少しの間。
重厚な音を立てながら、扉が開いた。

その横にひょこっと顔面偏差値が振り切れた恋人が顔を出した。


「いらっしゃい!」


この人の笑顔が今日も眩しい。


「お邪魔します…!」


その手に促されるままにリビングに通される。相変わらずシンプルでオシャレな部屋だ。

変わったことと言えば、恥ずかしながら最近はお泊まりなんかをする機会が増えてきたので自分の物を少し置かせて貰っている。
部屋着、下着、歯ブラシ等々。

嵩原さんの生活の一部に自分がいると思うと言い様の無い温かい気持ちが込み上げてくる。幸せな野郎だと俺は思う。


この温かい気持ちのままチョコを渡そうと鞄に手を突っ込み、袋の持ち手を掴む。


「嵩原さん!これ……、!」


袋を出す前に俺は見てしまった。机に置かれた大量の小包の山を。

これはまさか、まさかだと言いたいがまさかじゃないだろう。


「これ全部嵩原さんへのチョコですか!」


「そう、なんだよね……毎年、この日は覚悟はしてるんだけど家に帰ってから量に驚くよ」


さすがだ。もうなにも言えないが、これが俺の恋人か……。


「電車乗るとき周りの人に見られませんでした?」


「……今日はタクシーで帰ってきたよ」


眉を下げて困ったように笑った。きっとタクシーの運転手も驚いただろう。










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