新城社長と秘書の丸木戸さん

 §[新城社長のピンチ](1/8)

 その翌日、

「コーヒーをどうぞ」

 いつものように丸木戸に差し出されたコーヒーを美味しく啜ろうとしたところで、

「失礼します」

 まだ始業前だと言うのに、いつもならドアをノックして入室の許可を必ず確認する営業部長が、新城がどうぞと答える前に足早に社長室へと入ってきた。
 おまけに営業三課の課長まで後に付いている。

「新城社長、お時間よろしいでしょうか?…ご報告がありまして」

 ただ事ではない様子に新城は頷いて営業部長の話に耳を傾けた。

「どうした?」

「花菱製造産業が今から30分程前に来月からの契約を打ち切ると通達してきました」
「なっ…あそこはもう10年以上も我社と取引のある所だろう、それが何故…何か不始末でもあったのか?」

 昔からの取引先であった企業の打ち切り宣言など、新城にとってはこちらがよほどの不始末でもしでかしたのかと思えるほどの大事件であった。

「いえ…他社に乗り換えられたんです。ウチより6%も安い条件を提示されては…」

「6…」

 企業支出の6%がどれほどの金額か…たった一桁の数字の持つ重みを新城は良く知っていた。

「私の力不足です、申し訳ありません」

 三課課長が新城に深々と頭を下げると、新城は立ち上がって言い放つ。

「今からすぐに先方へ出向く。…丸木戸君、アポを」

 新城は社長である自分の為すべき事を良く分かっていた。

「こんな時こそ俺の出番だ、部長も課長も気にする事はない。…時にはこんな事もある」

 そう笑顔で答えて見せた。




- 46 -
back[*][#]next *しおり*
/62 n


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?


[←戻る]