丸木戸が新城の秘書となってはや一年。その間、毎日毎日新城は丸木戸を口説き続けた。
口説くと言っても一方的な好きアピールのみだが、丸木戸はよくもこんな地味な自分に飽きずに声をかけてくるものだと逆に感心した。でもだからといって新城に丸め込まれたりはしない。
新城のアピールがセクハラの域を越えない軽いものであった事も幸いし、丸木戸は秘書を辞めるでもなく、新城を訴えることもなく穏便無事なワークライフを営んできた。
丸木戸は新城に対して、地味な上に自分に興味のない女にかまけていないでとっとと見合いでもなんでもして結婚すればいいのにと思うのだが、彼もなかなか諦めが悪いようで自分を口説くことしか眼中にないらしい。
おまけに彼が社長に就任してからというもの、もともと従兄弟だという事は把握していたが、新入社員の曽根崎雄太まで何故か自分を気に入っていると言い出した。あまり新入社員と接する機会は丸木戸には無いのだが、雄太だけは社長室に親族の特権で良く出入りをするためどうしても顔を合わせないわけにはいかなかった。
「『なつさん』て呼んでいい?」
まだ幼さの残る子供のような声と顔で雄太は丸木戸を愛称で呼んでいいかと尋ねた。
それを断らなかったのは、動物好きな自分の感性に訴えかける何かがあったからだと思う。すがる子犬の目をした雄太を無下にはあしらえなかった。
「構いませんよ」
そう答えた時の雄太の喜びようときたら不覚にも可愛いなどと思ってしまったが、当然これを彼が快く思うわけない。
- 9 -
back[*]☆[#]next *しおり*
⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?
[
←戻る]