新城社長と秘書の丸木戸さん

 §[丸木戸さんの出逢い](1/4)

 丸木戸が新城と出逢ったのは丸木戸が27歳の時。
 新城の父親である前社長が会長になると同時に、関連会社の副社長を務めていた新城は新社長に就任した。
 会長に紹介された時の衝撃は今でも忘れない…


「丸木戸君、うちの息子の廉太郎だ。最初は君を頼ってばかりだと思うがよろしく面倒をみてやってくれ」

「とんでもございません。こちらこそ若輩でございますが何卒よろし…」

 新城は丸木戸を見つめたまま…というか凝視したまま微動だにしない。お辞儀しようと思ったが丸木戸は新城に問い掛けた。

「私の顔に何か?」

「…大いにある」

 えっ?…と驚いて会長も丸木戸も新城を見つめた。

「惜しい…実に惜しい…」

「どうした廉太郎?」

 父親でもある会長は自分の息子がおかしくなったかと心配する。

「父さんはどうしてもっと早く彼女を紹介してくれなかったんですか?」

「ん?」

「ん?…じゃないですよ。彼女というオアシスを独り占めしていたなんて父親ながら恨めしい。母さんが知ったらさぞ怒りますよ」

 丸木戸からしてみれば変人の言葉にしか聞こえない。初対面で何を喋っているのか理解に苦しむばかりだ。

「もしかして丸木戸君が気に入ったのか?」

「もしかしてじゃなくてそうです!…俺の人生は彼女と出逢うためにあったようなものですよ!」

…あった?

 過去形発言じゃ、自分と出逢えた時点で人生が終わってしまいますがいいですかと思いつつ丸木戸は新城の言葉を聞いた。

「…うむ…まあ…その…なんだ…こんな息子だがよろしく頼むよ。丸木戸君」

 嫌ですなんて言えない。
 他人との交流、交際、その他人間関係諸々を好まない自分に何故こんな興味津々なのか。

「…はあ…畏まりました…」

 面倒くさくなりそうだなと丸木戸は心の中で思いながら、なんと今の今までその面倒くささを引きずることになるとまでは思ってもみなかった。


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