シガレットアビリティー
[第1章 日常](1/6)
2030年、6

今日も日差しが暑い。そんなことを考えながら千河拓海は学校屋上に訪れた。

時間は10時頃、授業で言えば2時間目にあたるこの時間。拓海はいつもこの時間に屋上を訪れる。

不良それが拓海に貼られたレッテルである。だがテストでは必ず点は取るしケンカしたりもしない。彼が不良になったのには理由があるからである。

拓海はこの聖アキレス大付属高校にスポーツ特待生で入学した。一年の夏からレギュラーとしてチームの主軸を打つほどの実力があった。

しかし、一年の夏に事件は起こる。キャッチャーとして出場した秋季大会で相手チームの選手のスライディングが膝に入った。

結果、膝の靭帯損傷。高校生中の復帰は難しいと判断された。拓海の中の何かが切れた音がした。

拓海はプロ野球選手になるのが夢だった。だが、閉ざされてしまった。当時付き合っていた彼女にも振られ、人生の崖っぷちにまで追いやられた。

そんな時、彼はそのストレスを解消するかの如く煙草に手を出した。それから吸う頻度は増え、この2時間目の授業を必ず抜け出してくるようにしているのだ。

今日も拓海はポケットから煙草を取り出し火をつける。ふぅーっと煙を吐き出し、校庭を眺めている。


「またですか

振り向くとそこにはこの学校の生徒会長の加賀瑞樹が立っていた。


拓海「そんなこと言ってあんたも吸いに来たんだろ?」


加賀「まあ、あなたの監視という名目のもとでね」


加賀もポケットから煙草を取り出し、火をつける。


拓海「あんた生徒会長なのに煙草なんて大丈夫なのか?」


加賀「ええ。成績優秀で生徒会長をやっている僕を疑う人はこの学校内にはいません。少なくともあなたを除けばね」

フッと拓海は笑った。

拓海「確かに。初めは驚いたよ。あんたが注意するのかと思ったら一緒に吸いだすんだからよ」


加賀「仲間がいて光栄です」

しばらくの間沈黙が続いた。


加賀「前に私が出した提案考えてくれましたか?」


拓海「やっぱりうんとは言えないよ。俺は不良だから生徒会なんかに入ったらあんたの信頼が無くなる」

加賀「ほう。僕の心配をしてくれるんですね?」

加賀は少し考えた。

加賀「あなたは成績優秀、生活態度に関しては授業を度々抜けてこの屋上に来ている程度で他には問題はなし。特に問題も起こしてないし野球部のヒーローではありませんか」

拓海「元、野球部な」

拓海は一年の夏の大会でチームを甲子園へ導くサヨナラホームランを放っている。だからこそ、学校内で拓海を知らない人はいないのだ。

加賀「僕としては、あなたに野球以外のことで学校の力になって欲しいと考えているんですよ」

拓海「他を当たれ。俺はやらねえよ」

野球以外など、やる気にもならなかったのだ。

加賀「あれはなんでしょうね?」

加賀は校門を指差した。そこには一人の男が立っていた。


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