遅すぎた真実のエピローグ
14 [それぞれに残された僅かな時間](1/22)
服部刑事は、首を左右に振りながら取調室から出て来た。 服部は、自首して来た長谷部伸一の事情聴取をしていたのだ。

川上清子の住んでいたマンション入口で、警察官が一名殺害された時に使用された凶器のナイフから検出された指紋は、明らかに長谷部伸一のものだと断定されていた。 しかし当の伸一は、その犯行は自分がした事ではないと、それを否定してきたのである。 伸一が唯一、自分の犯行だと認めたのは、四年前に発生した銀行強盗の一件だけであり、今回起きた殺人事件等の犯人は絶対に自分ではないと供述してきたのである。 犯行に使用された凶器からの指紋という決定的な証拠を前にしても、そう供述する伸一に腹を立てた服部は、伸一に大声で怒鳴り散らしながら尋問を続けていた。 その服部の横暴な尋問に我慢出来なくなった伸一は、服部にこう告げた。

「凶器から指紋まで出てきたんじゃぁ、俺を犯人だと疑うのは当然の事かもしれませんが、それを全面的に否定している俺の話を最後まで聞いてくれようともしない貴方とは、これ以上何も話したくはありません。 誰か話しが解る他の刑事さんと代わって下さい。 それまで俺は一切何も話しません。」

その後伸一は、服部に対してずっと口を開こうとはしなかった。 それで堪らず、服部は取調室から出て来たのである。

「全く、往生際が悪い奴だ。」

服部は、取調室のすぐ前のデスクで調書を書いていた福原刑事に聞こえるように愚痴をこぼした。

「服部さん。 大分、機嫌が悪そうですね。 長谷部伸一は犯行を認めなかったのですか?」

服部はその質問に軽く頷き、福原の隣に腰掛けてからタバコに火を点けた。 そしてゆっくりと煙りを吐き出す。

「奴が認めたのは、四年前の銀行強盗だけだ。 今回の殺しの件に関しては、完全に否定してきたよ。 その後は、俺が何を聞いてもずっと口を閉じたままだ。」 

そして服部は、タバコの煙りを吐き出しながら深い溜め息をついた。



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