遅すぎた真実のエピローグ
7 [ 開き始めた真実への扉](1/8)
「先生、はっきりおっしゃって下さい。 絹代は‥‥ 妻は、後どれくらい生きられるんですか?」

高橋純一は、妻、絹代の主治医である近藤一(はじめ)の控室、内科医療部長室の中にいた。
原因不明の病に侵された妻、絹代の容態が思わしくなく、先日高橋は近藤から、こう告げられていた。

「奥様は、そう長くは持たないかもしれません‥‥」

その言葉に納得のいかない高橋は、近藤の部屋を訪ねて来たのだった。

「高橋さん。 それは何とも言えないんです‥‥。  奥様はご存知のように、原因不明の病です。  我々に出来る事は、いつ起こるか分からない原因不明の発作の激しい痛みを和らげる事と、弱ってきている心臓の負担を、薬で最小限に抑える事だけなんです。 ‥‥奥様は、免疫力が非常に低下してきています。  そのため、今奥様は、感染症に非常にかかり安い状態なんです。  この間のように、また肺炎にでもなられたら‥‥‥‥ おそらく、今の奥様の弱った身体では、耐えられないかもしれません‥‥。」

近藤は、真っ直ぐ高橋と向かい合いながら座っていた。  もちろん、目線も真っ直ぐ高橋の目を見ながら、そう言ったのである。
四畳半位しかない狭い部屋に、重たい空気が流れた。

「それでは先生は、絹代が感染症にさえならなければ、命にはまだ影響はないと、お考えなんですか?」

「ええ、そうです。  ただ、奥様の、ここ最近の急激な心臓の機能低下が目立つのが気になるんです。  心臓に負担になるような強いストレスを、今奥様が感じられた場合、果たして心臓にどのような影響を与えるか‥‥ それも心配される可能性の一つのです。」

「ストレスですか‥‥ 絹代は最近、四年前から連絡の途絶えた一人息子、一樹の名前を時々ほのめかすようになりました‥‥。  息子の事が心配で、心臓に負担をかける程の強いストレスが溜まったのでしょうか?」

「高橋さん‥‥。 奥様が、この原因不明の病を患ったのも、確か四年前でしたね。  その四年前にも話しましたが、この病気の原因が、息子さんと離れ離れになった強いストレスから来たものである可能性は、非常に高いんです。  高橋さん‥ 息子さんから四年間、連絡は一切ないのですか?」



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